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「そうじゃなくて、Aちゃんがちゅーして飲ませてよ。俺がお酒飲ませてあげたみたいに」
「…ここカラオケじゃん」
「でも俺今飲みたいもん。個室だしキスくらいどのカップルだってやってるよ？」
ね？と意地悪に笑う辰哉。
本当に悪い人だ。
漫画でもキスして飲ませることはしてなかったがキスは、していた。
でも漫画でヒロインにやっていたことと同じことを今ここでしようとしているのが少しだけ悔しくて。
力なくふるふると頭を横に振ってみる。
「そっかぁ」
辰哉はコップを持ち上げて一口飲んだ。
ああ私が意地を張ったから呆れてしまったんだと思って情けなくなった。
泣きそうになってモニターの画面を見ると後ろから抱きしめられた。
「Aちゃん？どしたの」
「…なんでもないよ」
「ほんと？じゃあこっち見て」
「…やだ」
本当に、私はめんどくさい女だ。
意地張ってばかりで素直になれなくて辰哉に嫌われるのも時間の問題だろうな、なんてもっと悲しくなった。
「Aちゃんこっち向いて」
「やだ」
「じゃあ無理矢理でもいい？」
そう言われ頭を振るけどそんなのお構いなしというように私を自分の方に向かせた。
それから私を膝の上に横向きに乗せて抱きしめてくれた。
無言のまま少し見つめあってどちらからともなく目を閉じて唇を重ねた。
膝の上に乗ってキスしているだけ。それなのにそれ以上の悪いことをしている気分になった。
短いキスを数回していると急に長いキスになった。
長いキスの時の息の仕方だって私は知っているはずなのに息ができなくて。
酸素を求めて口を開けると待ってましたと言わんばかりに辰哉の舌が口内に入ってくる。
私はこのキスが苦手だ。上手く思考できなくなるし力も抜けてしまうから。
辰哉は力が抜けてされるがままの私を見てキスをやめた。
「…なんでそんなエ ロい顔してんの」
「…して、ない」
「そんな顔されたら俺我慢できなくなっちゃう」
「…ここカラオケ」
「そうね。続きは家帰ってからね」
もう出ようという辰哉に言われるがまま一曲も歌っていないのに荷物を持って部屋を出た。
もう、反抗とかできなかった。いや、したくなかったのかもしれない。
辰哉になら、全てを捧げてもいいと思ってしまったから。
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作者名：雪野真哉 | 作成日時：2024年3月15日 22時
