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あれは…私が入社して少し…それこそ今の時期くらいだった。
新卒社員と部署ごとに代表者2人が来て軽い飲み会みたいなのをした。
会社全体だと人数が多すぎるからということで行われた新入社員歓迎会みたいなものだろう。
翌年からはそれもなくなったみたいだが。
その時は私はお酒がすこぶる弱くてほとんど飲めなかったんだけど近くに座ってる康二とかなみちゃんもお酒が強くはなかったので飲んでくれなんて言えなかった。
そんな中、徐々に酔ってきた社員さんたちに絡まれ始めて。
「ねえAちゃん彼氏とかいるの〜?」
「え、あ〜…ははは…」
「何その感じ〜かわいいね〜」
当時は入社したばっかりだったし先輩たちだし…と思って反抗もできず愛想笑いしかできなくて。もちろん今ならうぜえの一言で済ませるけどね。
そんな私と社員さんの間に割って入ってくれたのが推し様だった。
「なあ。こいつたぶん疲れてるから絡むのやめてやれよ」
「なんだよ渡辺〜抜け駆けか〜?」
「いやいや。そう言うわけじゃないけどさ。新入社員ってはじめの方まじで疲れ溜まるじゃん。思い出してみろよ」
「…確かに」
「だろ?ほら散った散った」
しっしっと手を払って社員さんたちを追い払ってくれた推し様は私の隣に腰掛けた。
「お前大丈夫か?」
「あ、はい、」
「ん〜…」
「…あの、何でしょうか」
私の顔…と言うか全体をジロジロと見てくる推し様に少し不信感を覚えて恐る恐る聞いてみる。
すると急にくしゃっと笑った。
「お前さ、多分髪伸ばして茶色にしたら可愛いよ。俺も見てみたい」
「え、」
「じゃあな。酔っ払いには気をつけろよ」
また元の席に戻っていった推し様。
私は…あの笑顔に落ちた。
それから推し様好みのオタクになろうと奮闘し。
背中の真ん中あたりまであるしっかり手入れしたサラサラツヤツヤの長い髪は推し様のため。
明るすぎない茶色に染めた髪は推し様のため。
綺麗ケアした指先、ネイルは推し様のため。
ヒールを履かないのは推し様が157くらいの女が好きって言ってるのを盗み聞き…いやたまたま聞いて、ちょうど私の身長くらいだから。
シナモロールのグッズをたくさん持っているのは推し様に似ているから。
全部推し様のためで、私の人生の全ては今後全て推し様に捧げる。
そう決めて早3年。最近推し様と幸せな日々を送っている。
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作者名:雪野真哉 | 作成日時:2024年3月15日 11時