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シガーキス【黒】 ページ3

「俺が欲しいのは煙草の火なんかじゃないんっすよ」




残業中。
気分の入れ替えのために喫煙所へ行くと後からついてきた後輩の目黒くん。
彼はいつも私がタバコを吸いに行こうとすると後をついてくる。





「先輩、火くださいよ」





そして毎回私にタバコの火を求めてくる。
ライターを貸すと何度も言っているのに毎回彼は私のタバコから火をつけようとする。
所謂“シガーキス”。
よく憧れのシチュエーションだと言われているみたいだが、喫煙者からするとこのやり方で火を貰われるとタバコが不味くなってしまうのでできればやめていただきたい。






「先輩。今日は何で残業なんですか?」
「あなたの同期のあの女の子。あの子のミスのカバーよ。当の本人は帰ってるし…意味わかんないわ」
「マジすか。なんかすんません」
「なんで目黒くんが謝るの」
「なんとなくっすかね」




へへ、と笑ってタバコの煙を吸い込む目黒くんは正直かなり絵になっている。
雑誌の1ページくらい飾っていてもおかしくないくらいのルックスを持っているのでタバコですら似合ってしまうのだろう。
羨ましい限りだ。




「目黒くんさ、なんでタバコ吸うのにライター持ってこないの?」
「持ってこなくてもいいからっすね」
「なんでよ」
「A先輩が火くれるんで」
「勝手に奪っていってるだけでしょ?」





灰皿にタバコを押し付けて火を消して喫煙所を出ようと目黒くんに背を向ける。
目黒くんも出ようと火を消しているのが何となくわかったので少しだけ待ってあげることにした。



「A先輩。俺が欲しいのは煙草の火なんかじゃないんっすよ」
「…何?お金なんて持ってないわよ?」
「違いますよ。俺が欲しいのはそんなんじゃなくて」





後ろからぐっと右腕を引かれて後ろを向くとそのまま腰に手を回されて引き寄せられた。




「俺、先輩が欲しいんっすよ」





目黒くんはそう言うと、唇を重ねてきた。
触れる唇は、火傷しそうな程熱くて、タバコの味がして少し苦いはずなのにどこか甘くて。





「じゃあ残りの仕事も頑張りましょうね、先輩」




目黒くんは私を見つめてそう呟いた。

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作者名:雪野真哉 | 作成日時:2024年3月26日 0時

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