先輩【橙】 ページ17
「こっちおいでぇや」
ベッドで私を待っているのは。
一個上の先輩の康二先輩。
彼とは高校の頃からの知り合いで。
たまたま大学が同じだったこと、それから住んでいるところが徒歩10分圏内だったこともあり、私たちはよく彼の家でお酒を飲む。
ただ一線を越えることはない。
お互いに越えてしまったらもう後戻りができないことが分かっているからだろう。
正直に言うと。
私は彼となら越えてしまってもいいのでは、なんて考えてみたりもする。
それで彼の側にいられるなら、喜んでこの身を捧げようと思っている。
重い？そんなことわかってる。
でもそれくらいには好きで、拗らせてしまっているのだ。
「康二先輩。酔いすぎですよ。お水飲んで」
「…Aちゃんは俺のこと好き？」
「…なんですか急に」
「なんで俺といつも飲んでくれるん？」
「質問ばっかりですね」
「ええからこっち来てぇや」
ベッドの上で自分の隣をポンポンとたたく康二先輩。
いつもなら酔ってもこんなことしないのに、なんか変。
そう思いながらも先輩からおいでと言われてしまったら断れるわけもなく言われるがまま先輩の隣に寝転がってみる。
先輩は私の頭を数回撫で、そのまま私の頭を自分の胸に押し付けるように抱きしめてきた。
先輩の匂いに包まれて心臓がはち切れそうなくらい音を立てている。
「せんぱい、」
「Aちゃんあんなぁ。俺Aちゃんのこと好きなんよぉ。せやからな、こうやって隣来られてまうとなぁ我慢できんなってまう」
「呼んだのは先輩、ですよ、？」
「せやんなぁ。でも来たのはAちゃんやで？」
そういうと先輩は私の顔をじっと見つめた。
暗い部屋の中でもここまで顔が近いとはっきりと見えてしまうので恥ずかしくて。
顔をそっと手で隠した。
正直、今日一線を越えてしまうのではという期待もあった。
「なんで顔隠すん？可愛い顔もっとみせてぇや」
「…先輩やっぱり今日おかしい」
「知ってんで？やからな、もっと変になってもええ？」
どういうこと、そう聞き返そうとしたときにはもう声は出せなくて。
唇は先輩によって塞がれていた。
息が、できなくて苦しくなり、口を開けると即座に舌が入ってくる。
顔をそらすと先輩は私の頬に手を添えて先輩のほうを向かせた。
「かわええ」
「先輩、あの、」
「なあ。ほんまはAちゃんもさ、俺のこと、好きやろ？」
自信ありげなその笑顔に私はうなずくしかできなかった。
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作者名：雪野真哉 | 作成日時：2024年3月26日 0時
