道化は〔わらう〕【文スト】〜青の時代編〜 (ページ43)

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「私の名は蘭堂では無い。私の所持していた帽子のスペルを見た此の国の者が、誤読して名付けたのだ。」
「相棒はどうしたの。」
工場内で、治の疑問が響く。
「私が此の手で殺した。」
少しして、蘭堂さんは中也君、と中也を呼ぶ。
其の声に嗚呼、と反応する中也。
「君は荒覇吐其の物では無く、荒覇吐を制御する為の入れ物として選ばれた人間なのだろう。」
「だが君は、荒神としてでは無く、一人の人間として、強い。」
「そりゃどーも。」
そう云いながら中也は横を向く。
「君の中に何が住んでいようと、君は既に君だ。それで善いのでは無いか。」
此れは中也だけに云ったんじゃ無い。
多分、此処には居らんあの人に対しても云ったんやろな。
其の蘭堂さんの言葉に中也は少し反応する。
「すべての人間、すべての人生は結局自分が何者か知らないまま生きるのだから。」
中也は何も云わない。
「中也、治。ごめんやけど先に帰っといて。ちょっとだけ蘭堂さんと話したいねん。」
そう云って二人は先に帰って貰う。
残ったのは蘭堂さんと俺のみ。
「どう、蘭堂さん。この前云った通り、寒くない処に連れてったで。」
そう云って蘭堂さんの横に俺は座る。
「嗚呼、本当に云われた通りになった。君はあの頃からもう既に、判っていたのか。」
「そう、判っとった。そして俺は知っとる。蘭堂さんが此の後どうするかも。」
そう云うと蘭堂さんは少し、驚いたような顔になる。
「蘭堂さん、ホントにええの？」
「・・・良いのだ。私は彼の相棒として、出来る事をしたい。」
「そっか。凄いな、蘭堂さんは。俺はそんな風には考えられんわ。」
そう云って少し笑う。
「ねえ蘭堂さん。此れから死にゆく貴方に、貴方だけに俺の今考えとる事を教えたるわ。」
「・・・俺は今、蘭堂さんが羨ましい。其れも凄く。」
「何故？」
俺は少し息をつく。
「俺は死が羨ましい。ずっと待っとるんや。死にたいってな。死に取り憑かれたように。」
「何時も思っとる。死にたい、今こうしたら死ねるかも、こうなったら死ぬかもって。」
「何時も頭の隅に其の言葉が、思考がある。消えへん。まあ俺は治と違って、口には出さんけどな。」
「でも何かが、俺の躰にある原因不明の何かが其の行為を阻止するんや。」
「なあ、蘭堂さん。今から貴方が行く場所に、黄泉の国に俺も一緒に連れてってよ・・・。」
消え入りそうな声で、俺はそう云う。