第十話 ページ13
俺は脳内で財布の中身を確認した。
このコーヒーは果たして部費に含まれるのかと思いながら、蜜山というその生徒を観察した。
素っ気ない態度や視線が定まっておらず目が合わない、そして少し興奮しているような落ち着かない様子から初めはなにか後ろめたいことを隠しているのかと疑ったが彼がいふぁ、イファカ?イフィカ?だかなんだかの話をし始めると、どちらかと言えば自分の友人を自慢気に語るその様子は寧ろ期待や陶酔などでそわそわしているという印象を受けた。
難波さんが尚も蜜山と話しているのに耳を傾けようとすると、ブブブブ…と羽虫のたてるような不快な音が細切れに聴こえてくる。まるで近くに羽つきの化け物でもいるようだ。
「雷堂さん、近くになにかいませんか?」
と小声で尋ねると
「獅子黒のことか?」
と隣を示す。
よく見えはしないが、難波さんの本を拾ってからというもの何か今まで感じなかった存在の気配を感じるようになった。元々人の気配には敏感なたちなので感化されたのだろう。
近くに一体、校内に五、六体程徘徊しているその気配は今まで気づかなかったことに呆れてしまうほど人とは違う。恐らく蜜山に対し警戒していた為に常とは異なる状況であったからという要因もあるだろう。
この点から言えることは雷堂さんの言う獅子黒は大柄の男性に近いシルエットをしていることから僕の感じた不穏な気配とは違うということだ。
多分今気づいているのは俺だけなのだろう。
…ふと己の肩を見るとツォールがマナーモード…いやバイブレーション並みに震えている。雷堂さんの疑いの目を避けながら小声でツォールに
「もしかしてツォールくんってバリアとか張れたり…はしないよねごめん忘れて。」
手にくすぐったい感触が走る。手のひらをみると黒で丸が描いてあった。玉田くんにツォールを押し付けながら思わず
「マジで?」
と呟いた。その時、羽音が一際大きくなった気がした。
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