もしものお話�∧�4話 ページ36
昂輝ver. 雪宮side
｢おかえりなさいませ、お嬢様｣
家に帰って扉を開けると、玄関に優雅な動作で頭を下げる男がいる。彼は、執事の衛藤昂輝。衛藤家の長男でありながら、何故か執事をやっている。
｢…？俺の顔になにか付いてますか？｣
『いや…慣れないなぁ、と』
｢そうですか？俺は慣れました。そして幸せです｣
にこっ、と綺麗な笑みを浮かべるコウは本当に楽しそうに仕事をする。ちなみに彼が執事になった経緯はこうだ。
・
何年か前、一人暮らしの私の元に彼はいきなり現れた。
｢面接に来ました｣
『アポ無しかよ』
お手伝いさんが欲しいなぁ、とさりげなく小さな張り紙をしていたが、まさか本当に来るとは思わなかった。とりあえず中に入れて面接をしてみよう
『えっと、つまり雑用してほしいんだけど…まだ若いのにいいの？』
｢構いません。…Aさんといれるなら｣
『ん？』
｢俺は、貴方が好きです｣
『んん？』
｢貴方といれるなら、雑用でも構いません。なので、傍に置いてください｣
『…んー、困ったな…』
｢置いてくれるまで、何度でも面接に行きますね｣
『え？今何て？』
・
『…コウ』
｢はい。珈琲ですね、どうぞ｣
『あ、ありがとう…あのさ』
｢おやつもありますよ。クッキーを焼いたんです｣
『うん、ありがとう。でも私の話を聞こうね』
｢あ…すみません｣
コウは私の欲しいもの、必要なものを全部用意してくれる。何も言ってないのに、恐ろしいな
『疲れてないの？ずっと働いてるでしょ』
｢そんなことありませんよ。適度に休憩はしていますし、貴方が傍にいるだけで大抵の疲れは無くなります｣
『…嘘だな。疲れてるだろ？今日は休みなさい』
｢ですが…｣
『もー、働きすぎだっての！いい？コウ、これから1週間、大人しくしていなさい。なんなら私とだらだらしよう』
｢そ、それは…ダメ人間になります。お嬢様が｣
『付き合いなさいよ、そしてコウもダメ人間になるのだ』
｢ダメ人間には、なりたくないですね｣
『…じゃあクビにしようかな』
｢……わかりました。じゃあ、一緒に寝ましょう？｣
『…ん、よろしい』
これで休むな、とホッとしていると、コウが私の顔を覗き込んできた。
｢Aさんも、お休みですよね｣
『…？そうだね、私もお休み』
｢そうですか…ふふ、恋人みたいで嬉しいな｣
『…！』
楽しみだ、と笑ったコウは、普段とは違う無邪気な笑顔を浮かべていた。
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作者名：雪藤 | 作成日時：2019年12月4日 15時
