平行線の行方【アレスの天秤】 (ページ5)

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「部活帰り？見たところ新品だね」

「あっ、はい！」

「先輩とか厳しいでしょ？うちの学校、去年サッカー部が優勝してからスポーツが結構盛んになったからね」

「俺、サッカー部なんですよ！」

「えっ」

　男子生徒のその言葉に思わず息が詰まる感覚を覚えた。そのせいか声も少し裏返ってしまう。その様子を可笑しいと思ったのか男子生徒は純粋無垢を絵に描いたような瞳で「どうかしたんですか？」と聞いてくる。

「ううん、何でもない。サッカー部って昨年度に人がいなくなっちゃったから、てっきりもうないものだと思っていたんだ。これで最後かな？」

「あ、そうです！すいません、ありがとうございます！」

　急いで取り繕う。嘘は吐いていないが、名前も知らない男子生徒に対して罪悪感が少し増えてしまった‥‥‥‥どうやら怪しまれてはいないようだ。内心胸を撫で下ろし、「これからチャックをちゃんと閉めてね」と注意する。

「部活頑張ってね」

「はい！」

　満面の笑みを浮かべつつ、友人と思われる男子生徒の方に向かって走る彼の後ろ姿を見送り、歩き出す。自分にもあんな頃があったなあ、としみじみ思い出に浸りつつ―――

　否、浸れる気にはなれなかった。折角人助けをしたというのにアンニュイな気分になってしまう。別に先程の彼が悪い訳ではないのだ、ただふとした拍子に思い出してしまった自分がいけないだけで―――

　そう言えば、自分のユニフォームはどうなってしまったのだろうか。あの無難なデザインは結構気に入っていたのだが、前にいた部員達が転校するにつれてリニューアルされてしまったのだろう。嗚呼、もしかしたら廃棄処分なんてオチもありえるかもしれない。