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先程の彼とはもう関わることはないだろう、名字を聞いてピンと来たのだ。嗚呼、彼が噂の転校生か、と妙に腑に落ちてしまった。
生憎様、こちらはスポーツをこなせるバリバリの体育会系ではないのだ。サッカーなんてやる気は微塵(みじん)も起きない。
「経験者です、入部させてもらえませんか」
真っすぐにこちらを見つめながら、入部届を差し出す女子生徒。行動といい、桃色の髪が目に付くその姿といい、思わず言葉を失ってしまう。
「‥‥‥あの、どうかしました？」
「あ、いや‥‥‥何でもない、です」
「私、元々はスタメンだったので戦力になれるとは思います。今は足の治療をしないといけないので、選手として参加するのはまだ先になりそうですけど」
一年前、島の部員達とテレビで見ていた姿がこうして目の前にいる。トレードマークのおさげは下ろしてはいるものの、落ち着きのある姿は全く変わっていない。
当然ながら周囲の生徒達もざわめきを隠せない様子だ。学校の中でも言わずと知れた有名人なのだから。
「すいません、昼休み中に。放課後、改めてそちらに向かいますから、それまでに心の整理をよろしくお願いします」
あれから脳内がパニック状態に陥ってしまった。「嘘だろ、これは夢か何かなんだろう？」と手の甲をつねれば当然のように痛みが走る。その感覚が嘘ではないと伝えて来るものの、零れて来るのは溜息だった。
「えっ、経験者の人が入部希望‥‥‥ですか？」
人数は足りているものの、もしものことを考えてベンチに選手がいた方が心強いだろう。だが、それとは別に気の知れた仲間に突然顔も知らないような部員が入ったとなれば新たな環境に慣れるまで時間が掛かることだろう。
「彼女」が入部すれば戦力も大幅に強化されるだろうが、今後のことも考えるとなると―――
そう考えを張り巡らせていると、部室のドアが開いた。ドアの方を見なくたって誰が来たのかは分かる。
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作者名：ゆきのさち | 作成日時：2019年7月13日 12時
