平行線の行方【アレスの天秤】 (ページ26)

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え、マジで？」

　唇を噛みしめた。悔しかった、どれだけ毒を吐いても前を向いて歩き出そうとする彼女に置いていかれたという事実が今こうして、私の胸をむしばんでいる。

「ホントだって！見たって人、結構いたらしいし」

　悔しい、酷い、悲しい、寂しい、辛い。いろんな思いが入り混じって心のパレットの上でぐちゃぐちゃになろうとしている。筆でぐちゃぐちゃと継ぎ足された絵の具がかき回されていくような感覚に思わず目眩を覚えた。

　‥‥‥今日は早めに切り上げようか。

　聞きたくなんてなかった、私を勝手に置いていった彼女のことなんて。何故、彼女だけが前に進んでいくのだろう。彼女だけじゃない、かつてサッカー部にいた彼らだってそうじゃないか。

　作業は全く進まないまま時間だけが過ぎていった。何度目かも分からない溜息を吐きながら後片付けを始める。

　今日は天気がいいからか、グラウンドで練習をしているサッカー部員の姿が見える。その中には、見慣れた顔もちらほらいた。生徒会長に、隣のクラスの大谷さん。後は話題に上がっている転入生達。高みの見物だとでもいうように、窓際から彼らの活動を見つめた。

　運よくスポンサーがついたらしいが、どうせすぐに敗退する。そして周りは口をそろえてこう言うのだろう。

　「やっぱりな」、と。勝手にはやし立てておいて、その癖して失敗すれば笑い種にされる。その手の平返しっぷりには呆れた笑いが零れた。そんな面倒なことをするなら、最初から見て見ぬ振りをすればいいのに。

「どいつもこいつも頑張って馬鹿みたい」

　一瞥(いちべつ)して、先程まで置いていた鞄を肩にかける。職員室に鍵を返しに行かなければ、と考えながら図書室のドアを開ける。

　いっそのこと白いインクでもぶちまけて何もなくなってしまえばいいのに。努力する彼らも、転校してしまった彼らも、全部全部なかったことになってしまえ。真っ白なキャンパスのように最初から書き直せたらどれだけよかったのだろう。