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「聞いた？」
「何を？」
友人がペットボトルのお茶を一口飲んだと思えば開口一番これだ。彼女曰く、自分は時代の流れに乗れていないそうだ。自分自身、特定の誰かを貶すイメージのある噂話という行為はあまり好かない部類であるからか、よほど大きな噂でも無い限り中々耳に入ってこなかった。
「うちの学校のサッカー部、フットボールフロンティアに出るって」
「知らないけど」
「嘘でしょ」
ポーカーフェイスはたちまち崩れ、唖然とした表情が覗く。それを見なかったようにして買いたての購買のパンを一口。
「一応関係者でしょ」
「そうだけどさ、顧問も部員も今は全国各地に散り散りだよ？それで関係者です、ってちょっときつくない？」
「隣のクラスの大谷さんがマネージャーになったのに」
「つくしちゃんはつくしちゃんだし、私は私だよ」
「変な所でドライね」
ドライというより、これが普通だと思うのだが。それにしたって今更怪我人が部活に復帰したところで足手まとい以外の何物にもならないというのに、どうしろというのだろうか。
「というか。それを言うならそっちもじゃない？」
「私は臨時だからノーカン」
「じゃあ私もノーカン」
「流石にきついと思う」
やはり駄目か、と少しだけ不貞腐れながらペットボトルのキャップを開けた、炭酸飲料独特の音が心地よく感じる。
「サッカー部の試合、見に行くの？」
「行かないかなあ。確か試合、週末だよね？」
サッカー部。かつて自分の居場所だったそこは姿を消したと思えば、全く想像しない形で、新しい形として復活を果たした。彼らがいなくなってから、あの部室には誰も足を踏み入れなくなった。かく言う自分も、そして目の前にいる彼女もいまだにあの場所に行けずにいる。
それは単純に勇気が無いだけなのか、彼らがここを離れてからそろそろ一年が経とうとしている現実を受け止めたくないからなのか、それとも―――いいや、本心を語るのはやめにしよう。
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作者名：ゆきのさち | 作成日時：2019年7月13日 12時
