79話 ページ30
由希が二度目の眠りについてから1時間程経った頃、Aは由希の部屋の扉をトントンッと叩いた。1日は多分起きないと言われてもやっぱり来て見たくなってしまう。しかも夕食までしっかりと用意してしまった。
「やっぱり起きてないよね……」
Aは残念そうに扉の前に立ち尽くす。
(……夕食作っちゃったしなぁ…)
「・・・匂いで起きたりしないかな？」
途端にそんな考えが浮かび、Aはそーっと由希の部屋に入った。お邪魔しまーす。と、小声で言ってから由希の机に夕食を置く。夕食を置いたら直ぐに帰ろうと思っていたAだが、もう少しだけ由希の側にいたくなった。
「……もう少し…もう少しだけ…」
そう言うと由希のベッドの側に寄り、由希の様子を見ながら改めて想う。
(……頬の傷…やっぱり私のお母さんにつけられたんだよね……私がもっとちゃんとしてれば由希くんを巻き込まずに済んだのに……苦しい……
想いなんてさせなかったのに……)
「ごめんなさい由希くん……私の…私のせいですね、、、」
そう言って顔を伏せる。そんなAの上に暖かい手が乗っかり、優しく声が降ってきた。
「大丈夫……そんなことないよ。A……」
由希の声だった。大好きな人の、聞きたかった声だった。眠っていると思っていただけにAはぼけっとし、顔を上げて聞く。
「え？…由希くん起きてたのですか……？」
すると【当たり前でしょ？】というように由希が言った。
「うん。夕食の匂いで目が覚めたよ。」
「え！すごいです！そうですか……良かったです…では、私はこれで、、、」
予想どうりの答えに少しAに笑顔が戻り、その場を去ろうとすると由希はAの服の袖をギュッとつかんで言う。
「まだ……いかないで……」
その言葉が何故か怖い。そう思って恐る恐る聞き返した。
「どうして…ですか？」
Aに何かあると察した由希は怖がらせないように軽く言う。
「なんとなく？……だよ。あと、言いたいことあったしね。」
【言いたいこと】が何なのか知りたくなってAは未だにベッドに座っている由希と目線を合わせる様に再びしゃがみこんで聞いた。
「……言いたいこと？…」
Aがそう聞くと、由希は少しAに顔を近づけて言う。
ー『ありがとう』ー
「……ってずっと言いたかった…」
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作者名：翼 | 作成日時：2019年1月19日 0時
