74話 ページ25
車を飛び出したAは誰よりも速く門をくぐり、由希の元へ走った。
「待ってて……由希くんっ‼」
由希くんは、帰ってくるって言ってた！
だから私が必ず迎えに行かなきゃいけない。
そう思いながらAは屋敷に向かって走る。
「由希くんっ‼由希くんっ‼お願いっ‼無事でいてっ……」
屋敷までくると、屋敷の前で横たわっている由希を見つけた。
「由希くんっ‼」
由希の名前を叫んでかけより、隣にしゃがみこむ。桜の蕾なんて、目に入らないくらいだった。
「…A……？」
由希はAの声を聞いてゆっくりと目を開けてAの名を呼ぶ。
「由希くん！大丈夫ですかっ!?直ぐにはとりさんが来ますよ‼……それに頬も少し深めに切っていますっ……どうして…」
そう言ってAは由希の頬に手を当てて傷をなぞり、目をつむった。
「…大丈夫…痛くないから……」
由希がそういうと何故かもう片方の手が暖かくなる。
そっと目を開けると由希がAのもう一方の手を優しく握っていた。Aは由希の手を両手で包み込み、涙を溜めて言った。
「…由希くん……もう……大丈夫…もう大丈夫です………今から由希くんはただの少年ですよ……」
Aは由希の耳元で言う。
「……うん……ただいま……」
由希はAにうっすらと微笑んで応えた。
「……おかえりなさい……」
Aがそう言うと由希は手を握っていた力を強めて言う。
「…やっと…帰れた…A…君の所に……帰れた……。よ…かった…」
それだけ言うと由希は意識を失い、目を閉じた。
「……由希くんっ……」
貴方が1番大切で、1番大好きだから、苦しんで欲しくないのに、1番に貴方を苦しめているのはきっと私の家族です、、、本当にごめんなさい。
本当は私が側にいる資格もないのに貴方は受けとめて笑ってくれる。そんな優しさにどれだけ救われるか…貴方はきっと知らない。
でも自分が辛い時は隠してしまう。
そんな貴方がやっぱり愛おしい……
たまらなく愛おしい……
そんな貴方の側にいたい……
Aはすでに意識を失った由希の耳元で、沢山の想いを抱えて、しゃがみこんで優しい涙を流す。未だに力強く握られている手が愛おしくて仕方がなかった。そしてまた、片方の手で頬の傷に触れて言う。
「…綺麗な顔に傷なんて……傷なんてつけちゃダメだよ……由希くん……無理なんてしないで下さい…貴方は……いつでも帰って来て良いのですから……」
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作者名：翼 | 作成日時：2019年1月19日 0時
