72話 ページ23
そこからの沙緒の切り替えはとても早かった。
「ならその大切なものがなくなれば貴方はここにいるというのね。」
と、冷たく言うと、湯のみを手に取る。
「なくなるなんてことはありません。彼女は。」
ー待っていてくれるー
由希も真剣な表情で伝えようとした。
「あぁ……もう分かったわ。Aでしょ。」
沙緒は諦めた様に知っていたかの様にいう。
「え……何故…」
由希にはそれしか言えなかった。
沙緒はそれに答える様にいう。
「分かるわよ。その位。今まで何人の人間を見てきたと思ってるの。それにあの子のもとへ帰ろうなんて言ってる時点ですでに貴方駄目にされてきてるわよ。」
バンッ‼)机をたたく。
「そんなこと‼そんなことはありません‼Aは沙緒さんが考える何倍も美しい人です‼隣にいて欲しいと思える人‼俺は知ってます‼」
ガシャン!？)
「いい加減にしなさい‼‼」
「痛っ……」
持っていた湯のみを由希に投げつける。由希は湯のみの破片で頬を切った。
それを気にするでもなく、沙緒は由希を怒鳴りつける。
「じゃあ逆に考えてみなさいよ‼貴方があの子の側にいたいというワガママのせいであの子は私に傷つけられるのよ‼何をするかわからないのよ‼」
「……っ…それは…」
考えたこともなかったことを言われ威勢を失ってしまう。
そんな由希に沙緒はとどめを刺した。
「貴方が神童Aを不幸にするのっ‼」
この瞬間、由希の中にマイナスな思考が巡る。
「俺が……不幸に…」
俺が…Aを不幸にする……
こんなにも帰りたいと想うのに……
それをしたらAの全てを奪ってしまうのだと思うと怖くなった。
「貴方の様な優しい人に大切な人を傷つけてまで勝手なワガママを突き通すことができるかしらね。」
答えは一つしか認めない。尋ね方だった。
「……俺…最低だ…」
由希は下を向いて呟く。
「あら、いきなり何？」
「…俺…まだAの元に帰りたいとか思ってる……ホント、最低だ……」
由希はそういうと下を向いて黙り込んでしまった。
「それが今の貴方の答えね。いいわ。今日のところは返してあげる。さっさと帰りなさい。」
沙緒は気分の良さそうな顔で由希を玄関へ行くよう促す。由希もそれに黙って従い、扉を開け、外に出た。スカッとするはずの春の空気がとても重たいものに感じた。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
ラッキーカラー
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作者名：翼 | 作成日時：2019年1月19日 0時
