71話 ページ22
2人は重い扉を開けて神童家の屋敷に入る。由希は重い気持ちで靴を脱ぎ、沙緒に言われるがままに昨晩紫呉が話した部屋に沙緒と向かい合わせになるように通された。
「…」
由希は何も言えないまま部屋には緊張がはしった。依然として部屋の空気は冷たい。
沙緒は由希にお茶をだしながら言った。
「私が今日聞きたかったのは貴方と茜のことよ………」
由希には耳を塞ぎたくなる内容である。
でも、Aの元には逃げ帰ってはいけないと思い、平静を保って由希は答える。
「それは分かっているんです…。いつか来ると思ってましたから…。俺と茜のことで何か？」
とにかく早く終わらせてAの元に帰りたい。その一心で聞き返した。
「そうね。貴方、茜を好いていないそうじゃない。好きか嫌いかはどうでもいいのだけど、貴方達には仲良くいてもらわないとこっちが困るのよねぇ……」
「………」
図星を突かれたのと、Aはこの女性に育てられたのだと思うとまた、心が苦しくなる。
そんな由希の顔色を伺いながら沙緒は言った。
「貴方、頭はちゃんとしてるんでしょ？お母様から聞いてるわ。なら貴方がどうするべきかは簡単に想像がつくんじゃないかしら？」
選択肢は一つしかない様な問いを由希に無理矢理答えさせる。
「…そりゃ、俺が茜と仲を良好にすればいいとは思いますけど…」
由希もそう答えるしかないのが悔しくて言葉を濁した。
「そうよね。なら、良好になるためにどうしたらよいかしら。」
続いて少し独特な問題を言い、答えを一つに絞らせようとする。沙緒にとっては黙り込んだ由希を虐めるのが面白く仕方がないようだ。
「……」
「私、方法は一つだと思ってるの。」
「一つ……」
由希が繰り返した後に沙緒は目を細めて言った。
「貴方が永遠にここにいればいいのよ。」
「永遠にっ……」
由希は驚きを隠せず、机をバンッとたたく。
「言葉の通り永遠にここにいればいいのよ。誰にも邪魔されないこの家に。」
沙緒は怯むことなく言い切った。
しかし、今度の由希は何か吹っ切れた様子で、気にする様でもなく堂々と、
「それはできません。」
と言った。
「聞き分けのない事いうのね。」
意外。と言う様に沙緒は由希を見る。
由希は優しい表情になって言った。
「待たせてる人がいるので…意地でも帰らなければ駄目なんですよ。……大切なんです。」
大切な人のところへ帰りたいんです……
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作者名：翼 | 作成日時：2019年1月19日 0時
