この手の隙間からこぼれ落ちないように【刀剣乱舞/だきしめて】 (ページ17)

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膝丸ページ17

「黎明(れいめい)が待ち遠しい季節になってきたな」

縁側に座っている私の隣に湯呑みをことりと置いて膝丸が言う。

いつもよりずっと早く起きてしまって、やることも無いからと部屋の前をうろうろしていたら膝丸に捕まった。

「君、暇なら俺に付き合ってくれないか？」
と。

まだ未明。冬の朝は明るくなるのが遅いから、外は夜のように暗い。

ちゃんと上着を着ているのだが、きんと冷え込む早朝には足りないようだ。ふぅと吐いた息がまっしろくなって飛んでいく。

寒いなあ、なんて思っていると、不意に肩が暖かくなった。振り返ると、膝丸が毛布を掛けてくれたらしい。

ありがとう、と言うと、膝丸はふっと微笑んで言った。

｢いや、俺が頼んで付き合って貰っているからな。これくらいは当然だ｣

イ、イケメンだ……！！私が感動していると、膝丸は私の隣に座った。

特に私から振る話題もなくて、庭を眺めていたらふと思いついた。

冬はつとめて。そんな一節のある話が無かっただろうか。

なんでこんなに震えるほど寒い早朝が良いというのか。

雪が降っているのはもちろんいいけど、霜が降りているのも物凄い寒さの中で炭をおこすのも良い、みたいな続きがあるやつ。

そんなことが漏れていたのか、膝丸が反応した。

｢枕草子(まくらそうし)か。いや、今は『まくらのそうし』と読むのだったか？｣

そうだよ、と答えると、少し嬉しそうに笑った。いやかわいいな？？

｢人間の歴史というのは振り返ってみれば早いものだな。鎌倉の時代も最近の話だと思ったのに、もう既にそこから1000年近く経っているのだから。｣

なにを言えばいいのかわからなくて、曖昧に、そうだね。と頷く。

｢君も、きっとすぐに居なくなってしまうのだろうな。｣

そうやって話す膝丸の目は、空を見ているのに、他のどこか遠くを見ているようだった。その姿がなんだか危うく見えて、膝丸の顔を両手で掴んで、強引に目を合わせた。

未来じゃなくて、今の私を見て。あなたの主は、今ここにいる。

そう言うと、

｢そうだな、確かにそうだ。ありがとう、主｣

とふわりと笑った。
それに満足した私も笑う。

｢こうやって、君とずっと笑いあっていたいものだ｣

そう言って私の手を取って、腕を引いて私のことを抱きしめた。

ぎゅうと強く、主を抱き締めた膝丸の目には仄暗い感情が宿っていた。