山姥切国広 ページ14
「い、いや、やはりこれは…」
私の部屋の前でおろおろうろうろしている布まんじゅう…もとい、山姥切国広がなにか呟きながら悩んでいるようだ。
どうしたの、と後ろから声を掛けると、大袈裟なまでにビックゥ!!と盛大に肩を跳ねさせ、少し上擦った声で振り返った。
「なっな、なんだ?」
いや、なんだ?ってこっちの台詞だよ、何してたの?
「いや別に………なんでもない」
なんでもないやつはこんな怪しい行動しないんだよ、と言えば観念したようで、やっと言った。
「その、これ…を、あんたに渡したくて、いや!受け取らなくていい!写しの俺なんかから受け取るのは嫌だろ、わかってる!!」
その手にそっと握られたものは櫛だった。
桜の意匠が控えめに施された櫛。
わあ、かわいい!ほんとにくれるの?と聞けば、さっきの狼狽はどこへやら、当たり前だろう、と返ってくる。
「礼はいい、俺がそうしたかっただけだ」
お礼はどうしよう?と思っていたら顔に出ていたのか。
いや、でもお礼がしたいな!と言うと、彼はしぶしぶといったふうに口を開いて言った。
「では………抱擁を」
いつになく真面目な顔で、両手を広げて私を待ち構えている。
いざするとなると緊張するものだ。行くぞ、と決意をして、その腕へ飛び込む。
ぎゅっと抱き締められた。
なんか落ち着く。そう言うと、ふ、と笑った気配がした。笑った顔がみたくてもがいてみたけど、胸板に押し付けられた顔は動かなかった。
刀剣男士つよい。
でもこれだけでいいの?と聞いてみる。
「ああ。………これで充分、いや、俺はこれがいい。あんたに触れることができる、それだけで幸せなんだ」
山姥切はぎゅ、と腕の力を強めて言った。
「ああ、できればずっと、こうしていたいな……」
未来なんて考えたくない。この時間だけ切り取りたい。そんな声が聞こえた気がした。
ラッキーアイテム
刀剣男士
36人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:紺碧 | 作成日時:2023年2月20日 9時