鯰尾藤四郎 ページ11
「イエーイ主、元気してます！？」
鯰尾が超絶元気に部屋に滑り込んできた。
元気ですよ、どうしたの。と若干白けた目で言うと、焦って弁解してくる。
「いや、あのちょっと普通に入るとつまんないかなーって！それで仕事してたら気まずいじゃないですか！」
主、絶賛お仕事中なんですが。
「さっきみたいに入れば多分気まずくないと思って！」
……まあ、いいけど…居たいなら静かにしてね
「はーい！」
元気に返事が返ってくる。それに頷いて、仕事を再開した。
静かに主の横に佇む鯰尾の脳裏にひらめくはごうごうと燃え盛る炎。
安全であるはずの本丸が燃える、燃える！
柱が燃えて、屋根が崩れる。
主を探す。必死に声を張っても、燃え尽きた瓦礫をかき分けてもいない。
まだ燃えている本丸へ目を向ける。そこには、こちらへ手を伸ばしてなにか口を開いている主の姿が。
──な ま ず お
確かに、確かに主が己の名を呼んだ。瞬間、ごおっと大きな風が吹いて炎が大きく揺れる。
主がひときわ大きくなった炎に飲み込まれる。あの守るべきものが、己の目の前で無くなった。
突然、どうしようもない喪失感に襲われ、地面へ膝を着く。
どうして、なんで。まだその時じゃないだろ。
ギリ、と歯を食いしばってその激情に耐える。それを乗り越えれば次に来るのはからっぽの感情だった。なにもしたく無くなって、ぱたりと腕の力が抜けた。
「っ！！」
掛け布団を弾き飛ばして、跳ね起きる。ドクドクと早鐘を打つ心臓が煩い。額には汗がじんわりと浮かんでいて、焦燥を感じさせる表情をしていた。
「ゆ……っ、夢……？………ああ、ゆめ、夢か…なんだぁ、夢かー、あ、あはは、こわ、怖かっ、たぁ……」
自分の体を抱きしめて、青い顔で呟く。
主の背中にもたれかかる。
「あるじ〜」
なーにー、忙しいでーす
「えへへ、ごめんなさーい。」
こうやって、返事がくる。主がいる。その『当たり前』が酷く愛おしく感じた。腕の中にある大きくて小さな命。少し腕の力を強めた。
(
(どうすれば、……主が歳を取らなくて、いなくならない方法、ないかな。……無いなあ。)
(あ、隠すのがいちばん手っ取り早いのかぁ)
鯰尾はひとり頷いた。
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作者名：紺碧 | 作成日時：2023年2月20日 9時
