【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ9)

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ドッドッド、と心臓と音が聞こえる。
見た目はそれほど無気味ではない建物を前にして、緊張が頂点に達した。

乱歩さんが割り出したこの場所。
確実に戦力が集まっているだろう。

「この分厚いシャッター、どうします？壊しますか？」

「元はと言えばAの問題だし、本人にやらせなよ」

『あ、本当？それならぶっ放すよ』

実際いつものことだけど、緊張のきの字もないみんな。

Aさんも誰に聞くこともなく刀を抜いた。
そして両手で強く握る。

数回の斬撃をくらったシャッターは本来ならあり得ない破壊音と共に崩れ落ちる。
改めて彼女の異能の恐ろしさを思い知った。

『だはは！やり過ぎた！』

「馬鹿力かお前は！何故折れた刀でこんな威力がでるんだ！」

『違うよ国木田さん、出ないと思ったから思いっきりいったの！』

殴り込み、文字通りに。
必要以上に派手に、敵全てに襲撃を知らせるくらいに。

怒る国木田さんに、笑う太宰さん、呆れる与謝野さん。
視線の先でゾロゾロと人が集まってきているのに全員に余裕が見えた。

「さて、作戦は伝えた通り。全員、Aたちに道を作ることに集中しろ」

「こいつはともかく市民に被害者が出ているなら仕方ない」

「ここは私たちに任せて」

奥、通称心臓マニアがいると思われる場所まで突っ切るのはAさんと、太宰さんと僕の3人。
軸にする戦力は、僕だと乱歩さんが言っていた。

他の社員はエントランスで他の戦力を抑える。
心臓マニアが主犯だとしても、組織の戦闘員は多い。

駆け込み、始まったような気持ちになる。
あとはもう、勝たなければならない。
負けたら全てが終わるのだ。

「さあ君たち、私を守りながら進みたまえ」

『何か嫌だなぁ』

「もう、早く行きますよ！」

意図的に作られた道を進む。

その時、一度見たスピードが視界に入った。
この速さは、手に余る。

『どけーい！』

「お見事」

『どうも！』

驚き過ぎて目が点になるというのはきっとこういうこと。

相手が斬らないように異能を使わなかった彼女。
そんな彼女が速さに特化した男を短い刀で地面に打ち付けた。
それも一瞬、一撃で。

『三度目は負けるわけないでしょ』

「あぁ、そうか。一度目は負けて、二度目は逃したわけか」

『屈辱。一度ならず二度も』

驚かず、適応し、圧倒する。
これが彼女の戦闘力が秀でている訳。

進んだ先で軸にするのが彼女でなく、自分である意味は何なのだろうと思う。