【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ8)

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『……おーい、敦くん』

「んー……はぁい……あっ！」

『みんな来ちゃうから顔でも洗ってきなよ』

飛び起きると、社内どころではなく外も明るい。
全くそんなつもりはなかったのに、気付いたら寝ていたようだ。

身体にかかっているブランケットを見て、自分がAさんよりも先に寝てしまったことに気付く。
本当は彼女に安心して欲しかったからここに残ったのに。

『どうした？』

「Aさんは、寝れましたか！」

『えー何？もしかして私が寝られるようにここにいてくれたの？』

「えっと、まあ……寝ずに敵地に乗り込むのは危険かと、思いまして…………」

もじもじ、と正直に言えば、彼女は分かってたよ、とでも言うような表情を浮かべる。
恥ずかしい、とても。

いつも社内で恥をさらしているのは彼女だから大丈夫だと自分に言い聞かせるが、とてつもなく失礼だと気付く。
そんなことで、彼女は怒ったりしないだろうけど。

『めっちゃ寝れたぁ。まぁ、敦くんほどじゃないけどね！でも』

「でも？」

『ありがとう。君がいなかったら死んでたよ』

どういうことだろう、と思う。

この夜に殺されることはないと前提にして、僕がいたとしても死ぬときは死ぬ。
だって彼女の命はここではない別のところにあるのだから。

『心が』

「後付けされると重みが増します」

『あれ？感謝が倍増して伝わると思ったんだけど』

彼女は基本的に、感情を大袈裟に表現する人だった。
必要以上に泣いてみたり、誰よりも喜んでみたり。

ただ、本当に怖がるべきとき、震える僕を他所に、彼女は笑っていた。
大丈夫だと、諭してくれた。

だから、これが初めて見せてくれた弱みなのだと思う。

『感謝を込めて珈琲でも淹れてあげようか。感謝を込めて』

「二度言うとふざけてるみたいに聞こえますよ」

『そうかぁ。じゃあ黙って淹れてくる』

「それ言っちゃあ意味ないですよ」

僕が寝ている間、手入れをしていたと思われる刀の刀身はやはり折れている。

大切にしていた刀を折られ、体の一部まで奪われた。
その悔しさ、恐怖は計り知れず、いろいろなことが重なって弱っているのかもしれない。

「Aさん」

『なあに？』

「僕、必ず貴方の心臓取り返します」

何をそんなに真剣な顔で、と言うが、気のせいでなければ少しだけ安心したような顔をしていたと思う。

言われたありがとう、はそれこそいつもの何倍も真剣で優しかった。