【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ20)

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『さてさて、私の話はこれで終わり。ところでなんだけど』

「何ですか？」

『手伝ってもらったお礼と、入社祝いを渡したいんだけど何が良い？』

僕の質問、彼女の話したいこと。
その両方が終わり、言われた言葉にそうだったか、と思った。

お礼に関しては考えてもいなかったけど、入社祝いの話は確かにした。
その後に色々とあったから忘れていたのだけど。

「別段何が欲しいってわけではないんですけど、二つ合わせて一つのお願いを聞いてもらっても良いですか？」

『敦くんの願いなら何でも聞こうじゃないか』

でも何だ？、と不思議そうな顔をするから、おかしくて笑ってしまった。

ずっと前から思っていた。
彼女が単独で仕事に出ていくといつも。
そして今回、いつもよりも何倍も不安になった。

探偵社を出て行く彼女を見て、もう帰ってこないのではないかと思った。
日々前線で戦う彼女を見て、そのまま死んでしまうのではないかと思った。

後ろ姿を見て、死を望んでいるのではないかと思った。

「どこにも行かないって、約束してください」

『約束……』

我ながら、酷なことを言っていると思う。
だってこの約束は、彼女を縛り付けてしまうのだから。

尊敬、友情、友愛、恋、愛。
どの感情が正しくて、どの感情が許されるのかを僕は知らない。
でも、そのどれもが心の中にある気がする。

『……君は、その言葉に責任が取れるの？』

年下の僕はきっと、彼女には幼く見える。
責任感だって、覚悟だって足りなく映るだろう。

そんなこと、言う前から知っていた。
だから足りないと思われたって、諦められない。

「責任は」

『嘘。嘘だよ、敦くん』

「え？」

顔をあげれば、Aさんは笑っている。

いつものように綺麗に、そして嬉しそうに。

『人を殺した人間だけど、嫌ではない？』

「嫌じゃありません」

『許されないことをした人間だけど、後悔しない？』

「しませんよ、絶対」

何も言えずに貴方を失った方が後悔します、と心の中で言った。
今まで何も教えてくれなかったのだから、これぐらい隠したって良いだろう。

『これは私が決めたことだから、敦くんは責任を感じることはないよ』

「あはは、またそれですか？」

『約束する。この先、私はどこにも行かない。ずっとずっと、君のそばにいる』

プロポーズみたいだね、と笑われたから恥ずかしくなった。

それでも思いが伝わったならそれで良かった。
思いが届いたなら、それで。