【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ18)

今日:5 hit、昨日:18 hit、合計:16,834 hit

18 ページ18

.

『あの組織は君が捕まえたあの男に救われた人間で構成されていたの』

「救われた…？」

唐突な真面目さに今度は目を見張る。

ちゃんと話してくれるらしいが、それでも彼女は笑顔を絶やさなかった。
それは何故か、根拠もないけど、僕を安心させてくれているように思えた。

『太宰さん、言ったでしょ？彼は闇医者だったって』

「……はい、覚えてます」

『彼は異能力を使って、多くの人を救ったの。知らぬ間に奪った、関係もない誰かの臓器を移植して』

あの人の異能力は、人に影響を与えずに臓器を取り出すものだった。
取り出されたとしても所有権が変わることがない限り、何の問題もない。
ただ、持ち主が変わらなければ、だ。

移植をすれば、所有権は移植された側になる。
そうなれば途端に、元の持ち主は臓器を抜き取られた状態になるのだ。
故に、死ぬことだってあり得る。

『彼には娘がいてね。ちょうど君と同じくらいの。そして彼女は難病を患っていた』

「それって、まさか…」

『そう、心臓移植を受けなければならなかったの』

「……だから、心臓を集めたんですか」

他者に他者の臓器を埋め込む臓器移植は、そう簡単なものではない。
拒絶反応が起きたり、また別の問題があったりする。

それに、実の娘だったのだ。
必要以上に過剰になっても何もおかしくはない。

『そしてそれに適合したのが私だった』

誰かへの善意だったのしても。
あの言葉がまた思い出される。

善意、というより純粋な愛。
これに関しては一律に悪とは言いにくい。
決して正しいわけではないのだけど。

命を救われた構成員たちは、いつでもその命を捨てる覚悟があった。
だからそこに潜入していた彼女も、心臓を差し出せと言われれば出すしかなかったのだ。

忽然と姿を消した彼女を男は諦められなかったのだろう。
何せようやく見つけた適合者。
娘の命を救える可能性の最も高い手段。

『ごめんね。先に話せば君は彼を捕らえるのを躊躇ってしまうと思って』

「それは…そうだったかもしれません」

『罪悪感を覚える必要はないよ。敦くんは私に言われたからやっただけだからね』

仮に、僕が事情を知っていたとして。
きっと彼女の言う通り、迷っただろう。
Aさんの命がかかっているとは言え、戸惑ってしまっただろう。

だから話を聞いたのが今で良かったと思う。
そうでなければ、僕の判断で彼女を失ってしまったかもしれないから。