【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ17)

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聞きたいことは終わりかな？、とAさんは首を傾げた。
そして僕が頷くと、彼女は指を一本立てて、それなら今度は私の番だね、と言った。

『私が君に話したいのは、今回の事件の全容だよ』

「全容、ですか」

『そう。あんまり話さないまま連れ回しちゃったからね』

今回の事件というのは間違いなく心臓マニアの話。

事件の対応をしているときは全然気付かなかったが、そういえば何も知らなかったことを思い出す。
わざわざ話してくれるのだからきっと何か裏があったのだろう、と思う。

『まず先に。心臓を奪われたのはわざとなんだよね』

「え？」

『あっはは！まあちょっとした気の迷いもあったんだけどね！』

あまりにも衝撃的な発言。

心臓をわざと相手に渡したのなら、彼女は事の全容を初めから知っていたことになる。
そしてわざと、命を預けたこととなる。

『まあこれは結局って話さ。奪われるか、死守するか。極限状態でその二択を迫られた挙句、奪われたように見せかけた』

「そこは死守してくださいよ……」

『でもおかげで不安で眠れなくなったよ！』

「笑い事じゃありません！」

彼女が笑えない話を楽しそうに話すから、僕も釣られて笑ってしまった。
いやホントに、笑えない話なのだけど。

「じゃあ聞きますけど、何で渡しちゃったんですか？」

『死守するのは簡単だった。でもそれを守り抜いたってことは、犯人の確保も容易いってことになってしまう状況だったのよ』

「確保すればよかったのでは？」

『いやね、奪われて手を出せず逃げられた。だから探偵社に助けを乞うたって物語を作る必要があったの』

「助けを乞うたのは？」

『それは単純にあのまま敵陣に乗り込んだら死ぬから』

どんどんと解かれていく謎に頭を抱えたくなった。

実際、紐解かれていっているはずなのに徐々に絡まっていっている気がする。
わかりやすく話してとは言えないけど。

『実は奪われる前日に、潜入調査をしまして』

「せ、潜入調査…」

『そこで血液検査とか諸々の身体検査をして、心臓寄越せってなったんだわ』

「はぁ」

反応が薄かったのは謝りたいと思う。
だがどうだろう、悪いのは僕なのだろうか。

視線が痛かった。
彼女はじっと僕を見て、表情を変えない。
何を言えばいいのかもわからなかった。

『嘘ではないが、反応に納得がいかない。真面目に話すよ！』

「はじめからそうしてくださいよ！」

何だかもう、いつもの流れだ。