【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ14)

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『ただいまぁ』

「おかえり」

お昼を過ぎた頃。
数時間前に出て行った彼女は何もなかったかのように帰ってきた。

「どうでした？これで一件落着？」

『うぅん…まぁ、それはそうなんだけど』

「何だ、歯切れが悪いな」

『回収した心臓、及び他臓器の持ち主への返却が…』

あぁ……、と質問をした谷崎さんも苦笑を浮かべた。

首謀者が捕まったことで、今後被害者は出ない。
だが今回の被害者も多くは知らぬ間に臓器を奪われただけで、今も普通に日常を送っている。

そうなれば、それを持ち主に返すまで事件解決とはいかないのだろう。

『まぁそれよりも、さっきは寝ぼけてたから言い忘れてた』

パシパシと服を叩いてシワを伸ばす。

その姿にみんなは彼女が何を言うのは分かったらしく、視線を向けた。

『みんなのおかげで犯人の逮捕ができ、私は命を拾えました。感謝してもしきれません、ありがとう』

こんなに深々と頭を下げるAさんを、僕は見たことがなかった。

ただ真っ直ぐの感謝。
それは、いつもの彼女らしく、それでもふざけている様子は少しもなかった。

「今度妾の仕事手伝って貰うからねェ」

「何か奢ってよ」

「始末書、書かせるからな」

『あーはい。全部やるから！』

休ませてあげようよ、と思わなくもないが、これが探偵社の姿なのだろうと思う。
手伝ってもらった代償はそれなりにあるけれど、Aさんも楽しそうだったから問題はないのだろう。

が、さすがに今日の午後は休みを貰ったらしく、ようやく椅子に腰を下ろした彼女はマグカップに口をつけていた。

『ね、敦くん。散歩、付き合ってくれない？』

「えっと、僕も仕事が」

「そういえば敦がAに聞きたいことがあるって言ってたよ」

僕の言葉を遮ったのは乱歩さんだった。
実際聞きたいことはあったけど、あたらまると聞きづらい。

Aさんは首を傾げたまま乱歩さんを見て、その次に僕を見る。
彼女のことは大体乱歩さんが教えてくれるから、自分に聞いてくることが不思議だったのだろう。

『じゃあ、敦くん借りても良い？』

「良いよ」

「えっ」

僕の意思も関係なく、話は進んでいく。
まぁそれはいつものことなのだけど。

『行こう、敦くん。実は私も君に話したいことがあるんだ』

「話したいこと？」

『そう、大事な話！』

腕を引っ張られる感覚に、少しだけ懐かしい感じがした。
今度の彼女は、完全体なのだけれど。