#１８７ ページ44
帰ってきた学秀の頬を見て、私は学秀に近づいた。
『…ッ、どうしたの!?その湿布…』
「なんでもないから、気にするな」
『…なんでもないって……』
騒ぎを聞いたお母さんが私の隣にやってきた。
「どうしちゃったの、学秀？転けた傷でも、どこかに当たった傷でもないわよね…？」
『…な、ぐられた…の？』
私の言葉に、お母さんの息を飲む音が聞こえる。唇の端は切れていて、痛々しい。
「…誰…に、」
『……まさか…、理事長に…？』
「あの人が、そんな事…」
「………」
『学秀、正直に言って。理事長に殴られたの？』
学秀の両肩を持って私は、学秀に再度聞いた。学秀は小さく頷く。それを見て私は目を丸くした。
「…そんな」
間違いであって欲しかった。生徒とのいざこざであって欲しかった。
暴力だけはしないと思っていたのは間違いだった…？
『どういう流れで…って、一旦手とか洗って制服も着替えて来な、？ね？』
「ああ」
学秀を洗面台に行くよう促して、お母さんの方に目を向けるとプルプルと拳を震わせていた。
『お母さん？』
「どんなに学秀と學峯さんの仲が悪かったとしても、私は口を出さなかったわ。2人の問題だもの。
でも…、学秀に…私の子に手を出したなら黙っている訳にはいかないわ」
.
.
.
制服からラフな格好に変わった学秀が私の隣に座った。向かいにはお母さんが座る。
「2人とも、聞かせて。学校での學峯さんの様子を、今まであった事も」
「…今年度に入ってから、理事長のE組への介入が多くなった。それに比例するように、E組はこの1年で飛躍的に力を伸ばしていた」
「テストで1位を取ったのはE組の子なのね？だから…怒って、あの人は…学秀に」
「いや、違う」
学秀は全てを話した。時折私も話に入って。
E組の事、差別待遇の事。
ケヴィン達への暴行で救急車を呼んだこと、その原因や学校での理事長の様子。私達への接し方など。全て。
「…そう」
ｶﾞﾁｬｯ…と鍵が回る音が聞こえた瞬間、ﾋﾟﾘ…ｯとした空気がその場を漂う。
お母さんがこんなに怒る姿を、私も学秀も見た事がなかった。
理事長がリビングに入ってきた。
私達の様子、特にお母さんの様子を見て目を丸くした。
「一体どうしたんだい？」
「貴方、本当に覚えがないの？
学秀の頬の事よ」
「…………」
その事に、理事長は言葉を返さなかった。
「殴った事、学秀に謝って。
どんな理由があろうとも、息子を殴る行為は虐待よ」
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作者名：ゆあ | 作成日時：2023年10月30日 18時
