#１７６ ページ33
物心ついた時から、僕の家は教室だった。
父が教師で…、僕と姉さんが生徒。
…そして、特に教える事が無い時は僕等の間に会話はない。
小さい頃は、これが当たり前だと思っていた。
どの家庭もそうなんだと、これが普通なんだと。だが、この家が普通じゃないと知ったのは割と早かった。
「見て見て〜！クリスマスにサンタさんがプレゼントしてくれたの！」
「僕も僕も！」
「私も来てくれたよ！小学生になったからってアクセサリーが作れるおもちゃくれた！」
「学秀くんのお家は、サンタさん来てくれた？」
「サンタさんは来なかったけど、お母さんがプレゼントくれたよ？」
「お父さんは、プレゼントくれないの？」
「先生だからお父さんはプレゼントくれないよ？」
「何それー？」
「どういうこと〜？」
「僕のお父さんも学校の先生してるけど、誕生日プレゼントくれるよ？」
「…え」
サンタさん…なんて、僕の家には来ない。
お母さんがいつも申し訳なさそうにプレゼントをくれる、それが僕の家のクリスマスだ。
家に帰り、姉さんに聞いてみた。
「姉さん、僕の家にサンタさんは来ないのか？お父さんが誕生日プレゼントをくれるものなのか？」
『うーん……。そう、だねぇ…』
「…僕がしっかりしてないからか？姉さんにもサンタさんは来ないのか？」
『うん、来ないかなぁ…。でも、お母さんからのプレゼントあるし…。あの人は…うん。』
「…………」
僕達の会話を聞いたのか、お母さんが焦ったように家事を中断して僕の事を抱きしめた。
「ごめんね、学秀。ごめんね…ッ、」
「…お母さん？なんで、泣いているんだ…」
『………』
姉さんを見ると、唇を噛んで何かを耐えるような顔をしていた。
.
.
.
＿＿＿中学生になったある日の事。
「…学秀。これを見て？昔のお父さんよ、確かにあの人は変わってしまったけど貴方達の事を確かに愛しているのよ」
お母さんが、何かを部屋から持ってきた。それは分厚いアルバム。
「お父さんには、内緒よ」
少しだけお茶目に笑うお母さん。アルバムを開いて、僕は驚いた。
「…これは………」
僕が生まれたばかりの頃の写真だろう、スヤスヤと眠る小さい僕を両手で抱っこし、涙ぐんでいるお父さんの姿。
隣の写真は、小さい姉さんをお父さんが抱っこしてお腹の大きいお母さんの姿。
どの写真を見ても、お父さんは暖かく笑っていた。
「…写ってるのは本当にあの人なのか…双子の兄弟じゃ？」
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作者名：ゆあ | 作成日時：2023年10月30日 18時
