-2- 透明人間 ページ3
室内に落下音が響き渡る。
Aは休憩室に設置されている自販機から出てきた缶コーヒーを手にすると、即座に椅子に直行した。
体を預けるように、椅子に持たれかかる。椅子は何も言うことなく、彼女を難なく受け止める。
缶コーヒーのプルタブに人指し指を掛け、勢いよく手前に引く。と、彼女は苦労の息を吐いた。
一昨年に晴れて警視庁捜査一課に配属されたAは刑事となり、それなりの活躍を見せていた。
ところが。警察官という職は、まるで息をするように体力精神を減らしていく。功績と体力精神は反比例傾向にあった。
「おい、生きてるのか生きてねえのかはっきり返事したらどうだ」
「生きてます」
Aは目の前にしゃがみこんでいる男、松田陣平を見る。彼はAの警察学校時代の同期であり、友人の一人である。
頭がじんわりと冷たい上彼の腕が私の頭上へ伸びていることから、アルミ製の缶が置かれていることに気がついた。種類は相変わらずのブラックコーヒーだろうか。
「ここにあなたがいるということは?」
「用事云々。そっちはどうだ、上手くやれてるか」
「……そこそこ、かな」
ふふ、とAは思わず笑みを溢す。この人は言葉遣いは荒いというに、時たま人の良い質問をしてくるから不思議だと彼女は常々思う。一見、正義感など持ち合わせていないように見えるが、彼に救われている人間が何人もいるということを、Aは知っている。
「そっちの調子はどうですか」
予想通りのブラックコーヒーのプルタブを開けているところに、Aは質問を投げかける。
「愚問だな」
松田陣平は、Aが “それなりの活躍” を見せているのに対して、その逆を行きつつあった。そのきっかけの一つ、Aがここへ配属になった年に起きたとある事件が挙げられる。
「……心配して聞いてるんです。いない人を追いかけるの、もうやめたらどうです」
一昨年、警察官が数名殉職するという不運な事件が起きた。事の発端は停止したと思われていた爆弾装置が再び動き出したということ。そして爆発までに残された時間が、あまりにも酷なものだったということ。殉職した警察官の中には彼と友人であった萩原研二がいた。
「はは、『いない人を追いかける』か。それは語弊があるんじゃねえのか」
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雨屋まほろ(プロフ) - 綺藤さん» 好んで読んでいただけたこと、大変嬉しく思います。すすんで読書をしてこなかったツケが回ってきたのか執筆が滞ってしまうことも多々あるのですがそのお言葉を糧にして執筆、頑張りたいと思います。ありがとうございました。 (2017年4月5日 17時) (レス) id: 8301c7292f (このIDを非表示/違反報告)
綺藤(プロフ) - 前作から読ませていただいており、作者様の作品が大好きです!!更新頑張ってくださいね!! (2017年4月4日 22時) (レス) id: 860dd52b69 (このIDを非表示/違反報告)
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