ヨザクラミチシルベ ―神威に餞―混戦編

第八十二刀　：　たとえどんなに悲痛でも。 ページ3

―――こんのすけに連れられ、やってきたのは、
どういう理屈か、鍛刀部屋だった。

ここは確かに近侍以外入ることはないだろうから、
話をするならばここか、俺の自室になるだろうけれど。
―――そう、ここか、「俺の部屋に」なるんだ。本来は。

しかしわざわざここへと連れて来た、ということは。

「・・こんのすけさん、」
『・・・審神者殿、先に忠告しておきます。
神々の執着は、確かに厄介なものです。
しかしそれをふまえて、それを含めても、
この先に起こり得る現象は、防がなくてはなりません』

こんのすけの背はしゃんとしていて、
何事にも揺るがぬことを意味していた。

『審神者殿、あなた様のこの本丸で、
あなた様が鍛刀した刀剣は、
三日月宗近、宗三左文字、へし切長谷部、にっかり青江・・
どの刀剣も練度の高いものばかりです。
そしてあなた様が引き取った、江雪左文字もその例にならいます。
―――ですが、三日月宗近がいるとはいえ、
やはりどうしても、どうしても非力なのです。
審神者殿、これが最後の、―――鍛刀の願いです』

最後に一振りだけ、鍛刀していただきたいのです。

こんのすけのその言葉に、霞はここへ呼び出された理由と、そして、
――――あの厨に、江雪左文字がいなかった理由が、わかった。


『江雪左文字は、三日月宗近、そしてある大太刀に次いで、
幽世(かくりよ)と現世(うつしよ)の因果を理解している刀剣です。
彼は、あなた様が鍛刀することを、止めていたのではないですか？』
「・・確かに、そうだけど・・」
『幽世の闇を知り、現世の罪を知る。
それ故に、神々の執着についても、
恐らく何かしらの直感的警戒心があったのでしょう。
―――もしかしたらそれは、―――当たってしまうやもしれませぬ』

ここでこんのすけは振り返り、
少しだけ、悲痛な面差しを見せた。


『・・ですが、もし、あの備前国のように、
探究側に攻め入られた時・・・
戦力は、少しでも多い方がよいのです。
あなた様を守り、現世へと連れて行く役割は、
練度の一番高い刀剣の役割であり、
最低でも二振り、必要です。
その役目は、
恐らく三日月宗近と、江雪左文字が担う事となるでしょう。
しかし今のままでは、戦うものが、
残された三振りになってしまう・・・』


―――だからこそ出来うる限り、練度のあるもう一振りを、
あなた様に鍛刀していただきたいのです、と。

こんのすけはその眼差しに辛い意識を宿しながらも、はっきりとつげた。

第八十三刀　：　鍛刀、執着？→←第八十一刀　：　流れる

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す