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45.約束 降谷side ページ46

その言葉に思わず反応を見せてしまった。
きっとそれにAは気付いている。

『……ってね。』

眉を下げて儚げに笑う彼女に、胸が締め付けられる感覚がした。

あれから17年も経っているのに、彼女はあの約束を覚えていた。
そしてそれを“僕”に伝えたという事は、彼女なりに“俺”に配慮したんだろう。

僕、安室透が、降谷零であることを悟って。

昔から観察力が優れている彼女の前では、どんなに安室透を演じても綻びが出てしまう。
けどこのまま何も言わずに安室透を突き通せば、彼女は今後も疑念を抱き続けるだろう。
…この前のように、悲しげな表情で。

「……僕も、ある人と約束をしているんです。」

『え…』

恐らく、次の言葉を言ってしまえば、鋭い彼女は確信するだろう。
けれどそれは、彼女を危険に晒してしまう可能性が高くなることでもある。

でも、それでも……


「……またあの景色を一緒に見よう、と。」


引き際を理解し過ぎている彼女の心が壊れる前に、


「…“俺”も夢を叶えたよって、伝えたい。」


あの様な悲しい顔を、させたくなかった。

『ッ…』

降谷零としての本音。
本当は今すぐにでも伝えたい。
17年前から変わらない君への想いも。

けど、それはまだ伝えられない。

彼女の目に溜まっていた涙がその白い頬を伝って零れ落ちる。
俯いてその涙を隠される前に、カウンター越しに手を伸ばして涙を拭う。

「…そんな顔、させたかったわけじゃないんだけどな。」

『ッ…約束を覚えていてくれたのが嬉しいの…』

「…いつか必ず約束を果たすから、待っていてくれ。」

お前が大好きだった桜並木。
花びらの隙間から差し込む太陽の光に目を輝かせていた幼い姿を思い出す。

俺の言葉に、涙を流しながらも微笑んで何度も頷くA。
そんな彼女に、愛しさが込み上げる。

降谷零として、工藤Aとの17年振りの会話。
たったこれだけの会話だが、その安心しきった笑顔を見れてよかった。

察しが良くて、頭の回転が早い。
それ故に、他人のテリトリーには決して自分から踏み込まない。
そこに自分の感情なんてない。
そんな彼女だからこそ、誰かが居場所になってやらないといけない。彼女が安心して自分を出せる、そんな居場所を。

それが自分の手の中がいいなんて、欲張りだな…。

ポアロの窓からは、暖かい夕日が射し込んできていた。

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YuasA(プロフ) - †NANA†さん» ご指摘ありがとうございます。先程訂正いたしました! (2022年1月7日 16時) (レス) id: 5892518060 (このIDを非表示/違反報告)
†NANA†(プロフ) - ページ24で、「電話したもんだな」が「電話わしたもんだな」になっています。 (2022年1月7日 15時) (レス) @page24 id: 9dc612bbe9 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:YuasA | 作成日時:2022年1月1日 23時

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