29.風見さん ページ30
『どうぞお座り下さい。』
「失礼します。」
いつもは患者さんのご家族と話をするための部屋。
刑事さんと対面して座った私は早速口を開く。
『産婦人科の専攻医の工藤Aと申します。』
「私は警視庁公安部の風見裕也です。」
『公安部…』
という事は、巻き込まれたのはテロ?それとも政治犯罪?
どちらにしても、結構重大な事件なのかしら。
「公安がマークしていたハッカーが行動を起こそうとしたのが発端です。我々は何とか奴の住処であるアパートの場所を掴み、アパートを全方位して確保しようとしました。ですが、逃走しようとした奴が、たまたま部屋から出てきた妊婦とぶつかったんです。」
『…その時にお腹を打った可能性が高いですね。』
「えぇ。すぐに奴は確保したのですが、その時妊婦は特に痛みもなく胎動もしっかりしていると言っていました。ですが、その数分後に奴を連行した後で、急にお腹を抑えて蹲り始めてしまって…。」
患者さんがここに運ばれるまでの経緯は理解できた。
衝撃を受けてから症状が出るまでラグがある人も珍しくはない。
でも特に大きな怪我を負ったりした訳ではなくてよかった。
『にしても、タイミングが悪かったですね…。』
ちょっとでもタイミングがズレていればこんな事にならなかったのに。
私の言葉に、風見さんは真っ直ぐな目でこう言った。
「いえ、他のアパートの住人にまで意識を回せなかった自分たちの落ち度ですので。」
きっと、心優しい人なんだろう。
この人たちがこの日本を守ってくれているんだと思うと嬉しくなる。
『…いつも、お疲れ様です。』
「え…」
キョトンと目を丸くする様子が、失礼ながらちょっと可愛く思えてクスリと笑みが漏れる。
『クスッ…こんな優しい人達に守られて、いい日本になるなと思って。』
「…!!」
まだまだ犯罪も多く蔓延る国だけれど、日本のために一生懸命動いてくれている人がいる。
私ももっと感謝しないとな。
「あの…彼女が退院したら、教えていただけますか?捜査に巻き込んだお詫びをしたいので。」
そう言って風見さんから手書きで書かれた番号のメモを手渡される。
『分かりました。患者さんにもお伝えしておきます。』
掛かってきた番号が未登録の番号だと出にくいかと思い、私も自分の名刺を取り出して渡す。
「本日はありがとうございます。」
『こちらこそ、詳細を教えていただきありがとうございます。』
こうして、私のスマホに風見さんの番号が登録された。
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YuasA(プロフ) - †NANA†さん» ご指摘ありがとうございます。先程訂正いたしました! (2022年1月7日 16時) (レス) id: 5892518060 (このIDを非表示/違反報告)
†NANA†(プロフ) - ページ24で、「電話したもんだな」が「電話わしたもんだな」になっています。 (2022年1月7日 15時) (レス) @page24 id: 9dc612bbe9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:YuasA | 作成日時:2022年1月1日 23時