【文スト】元マフィアの捜し者！ (ページ42)

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「利用」ページ42

中「少しは落ち着いたか？」

『……うん、ありがとう。』

人の温もりって、こんなにも安心するものだっけ。
どこか懐かしく、気持ちが落ち着いて溶けてでゆく。

だがその安らぎも、長くは続かなかった。
或る男の声が、気配も無く道の奥から突然聞こえてきたのだ。

「随分と、仲がよさそうだねえ。」

中「『！』」

私たちは咄嗟にサッと距離を取った。
通路が影になっていてよく見えないが、分かる。

此の声。忘れる筈がない、聞き間違う筈がない。
考えの読めない、此の声の主は……

森「そうだ、私にもあれやってくれて善いのだよ？エリスちゃん！」

エ「イヤよ！もしリンタローが世界中の美味しいお菓子を全部買ってきたとしても、それだけは絶対イヤ！！」

中「……首領。」

ポートマフィア首領、森鴎外。
森さんが姿を現すと、中也さんは帽子を取って片膝をつき、忠誠と敬意を表した。

『(どうしよう。)』

エリス嬢との買い物ならもっと時間がかかると思ってたのに。
最後の悪あがきに、被った帽子(フード)を深く、深く下げた。

今すぐ走って逃げ出したい。
でも逃げ切れるとは思えない。

中也さんだって、首領に私を捕まえろと命令されればそうするしかない。

森「中也君。急で申し訳ないが、ある"裏切り者"の捕縛を頼みたくてね。」

『っ、』

中「……はい。仔細をお伺いしても宜しいですか。」

このままだと、

森「勿論だよ。ところで……

其の少女は、君の知り合いかい？」

鋭い視線が、真っ直ぐ私に向けられていた。

冷や汗が止まらない。
身体が動かない。
圧に押し潰されそうだ。

中「太宰の妹だと聞いています。只、情報源があの太宰なので信憑性は紙の厚さよりずっと薄いですが。」

森「成程ねぇ。」

太宰さんの、妹。
その設定が此処で役立つとは。

若しかすると、此れも太宰さんの推測の内なのかな。
だとすると少し、いや大分恐ろしい。

これで森さんが引くとも思えないが。

森「では太宰君の妹さん、私について来てくれないかい。
君と少し話したくてね。」

其れが穏やかで平和的な"話"でないことが、手に取るように判る。例え断ったとしても、無理矢理連れて行かれるのがオチというものだろうが。

返答を渋っていると、森さんが私の後ろの何かに気付き、
困ったように笑う。

何かと思って振り返ると、其処には太宰さんが居た。