第三十五夜 ページ37
.
ふっ、と乾いた笑みが零れた。
そうだった、何を今更、もう私は
もうとっくに死んでいて、もう人間ではないのだった。
わかりきっていたはずだったのに、こうして考えてしまうと悲しくてたまらない。
悲しいというより、切ない。
人間でないのなら、私は一体何なのだろう。人の形をした霊魂？
いや、体はあるんだった。
じゃあ、私は、"化け物"？
リン「あー……そ、ですね、気になりますよね、やっぱ」
頭をカリカリとかいたリンさん。
表情は見えないが、きっと複雑な心境なのだろう。
私は彼女に、うん、と短く言葉を返した。
ひたひたと、木でできた床が素足に張り付く音に耳を傾けながら、私はリンさんの声に耳をすませる。
リン「…最初はみんな煙たがってたけど、あいつは誰よりも一生懸命働いてて、最後にはみんなに慕われてたんです」
ぎょっとした。
思ってもいない言葉だった。
みんなに慕われていた？
冗談じゃない、まともな人間がこんな世界で正気を保っていられるはずがない。
人外に囲まれて、人外相手に仕事をして、精神を病まないはずがない。
逃げ出したか、殺されたか、石炭にでも変えられたのだと思っていたのに。
リン「ドジでとろいけど素直で馬鹿優しくて、みんなあいつのことを好きになっちまう。
あいつのおかげで今の俺らがあるっつーか、まあ、革命家ってやつでしたね！」
まるで自分のことのように、誇らしげにその人間を語るリンを見て、私は僅かに心を痛めた。
その心の痛みの正体は＿＿嫉妬と、精神的重圧。
もしかして、ハクやカオナシ様、神様たちが私に良くしてくれるのは、その人間のおかげ？
みんなは私とその人間を重ねて見ている？
私を通して、その人間を見ていた？
つまりはみんなの心は、実は私に向いているのではなく、私の奥に見えたその人間に対しての事なのだ。
私自身を見ていたわけじゃあ、なかったのだ。
ああ、ああ、みんなから好かれるほどの人間と比べられるだなんて、真っ平御免だ。
私は、みんなの期待している人間なんかじゃないのかもしれないのだから。
少し前の人間と違う行動をして、勝手に幻滅されるなんて耐えられない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 208人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちゅん(プロフ) - 凄く素敵なお話ですね^_^続きが凄く気になります(^^) (2022年3月25日 23時) (
レス) @page48 id: 1fdd2ab3eb (このIDを非表示/違反報告)
猫 - 今更かもですが､私も続き気になります…｡ (2018年11月16日 19時) (レス) id: 08a665f28f (このIDを非表示/違反報告)
れんらん(プロフ) - 更新お願いします！ (2018年8月9日 19時) (レス) id: 0c5afdadd2 (このIDを非表示/違反報告)
KA☆SE☆I(プロフ) - 続きがめっちゃ気になります！更新頑張ってください！ (2018年6月10日 19時) (レス) id: 34b5e9b2d8 (このIDを非表示/違反報告)
YuRa(プロフ) - ねこさん» 続く予定です！筆者の受験が終わりましたら、更新を多くしていきたいと思います！ (2018年3月4日 14時) (レス) id: 16af3255b2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：YuRa x他1人 | 作成日時：2016年11月27日 14時
