おわりまで きゅう ページ9
「急展開が過ぎるんじゃないのか」
大きなため息を吐きながら覗き込んだ店内、椅子に座っているのは見慣れた小さな背中が二つ。一方に気づけれて仕舞えば大変なことになってしまうと脳内でサイレンが煩くなり出す。
こそ、と植木の側にしゃがみ込み思案する。側から見れば、長身の男が店の前でしゃがみ込んでいるなんて可笑しな光景だろう。周りの目を気にしつつ、思考を巡らせていると聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。
「あら」
「ひぇ…き、君は」
「中で待ってるみたいだけどいいの?」
凛とした態度の少女は店内に目線を向けると、こちらと向こうを交互に見始めて俺にそう告げる。それから何かに気付いてか少し笑みを浮かべて手を振り出す。どくどくどくどくと今までにないくらいに煩く心音が鳴り始める。ぐるぐると考えていた打開策だって、形を保てなくなって脳内で溶けていく。
「あら、お出迎えかしら」
「え」
びくっと肩を揺らし、目を丸く見開くとからんころんとドアが開く。しゃがみ込んだ俺と、不敵な笑みを浮かべた少女に視線を送って、小さな女の子は小さく言葉を紡いだ。
「おにいさん」
あまりにも弱々しく放たれた言葉に戸惑いを隠せず、小さなその肩を掴んで存在を確かめる。ぱちりと驚きで見開かれた丸い瞳とかち合って、そのまま数秒見つめた。途端に彼女の目の端に透明な雫が浮かぶ。その瞬間に自分が泣かせてしまったのだと気がつく。
「Aちゃん…」
君を笑顔にすると決めたのに、そのために下した判断は正しくなかったのだと言うのだろうか。分からなかった。君には俺なんか必要ないのだ。非日常に片足を突っ込んだって、良いことなんかありゃしない。それは俺が誰よりもわかっているつもりで、だからこうやって君から離れて、君を幸せにするのだと、そうやって決めたのに。
「おにいさん、わたしのこと
きらいに…きらいになったの…?」
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作者名:えだまめ | 作成日時:2019年10月30日 17時