おわりまで じゅうに ページ12
「おにいさん」
なみだがもうこぼれてしまいそうだった。おにいさんは変わってなくて、ちょっとだけその事実に安心してわたしがちょっとおちついていると。おにいさんがわたしの肩をつかんだ。びっくりして目を丸くする。
触れたあったかさは前のきおくと全くおんなじで、すんでのところで止めていたなみだがあふれた。泣きたくないのに、おにいさんに会えてうれしいの。わたしが泣いてもおにいさんは笑ってよ。
「Aちゃん…」
おにいさんの声はふるえていた。景色がぼやけてうまくかおを見ることができない。強めになみだをぬぐって、目の前にいるおにいさんのかおを見つめた。なにもいわずに伏せられた青いきれいなひとみに浮かぶのは光じゃない。ちがう、とわたしのなかのだれかがいった。おにいさんはきっとわたしのこと見えてない、見ようとしてない。
「おにいさん、わたしのこと
きらいに…きらいになったの…?」
おにいさんの伏せられたひとみがぱっとこちらを見た。ひゅっと空気をのみこむ音がしただけでおにいさんの声はきこえない。ふるふるとおにいさんの手がふるえていた、にぎれたはずのその手までのきょりが遠くてしかたなく感じた。
だけど、ちゃんとわたしの言葉を聞いてよ。おにいさんはなにを見てるの。
「おにいさん、あむろおにいさん!!」
「Aちゃん!
安室さん…っなんで黙ってんだよ!?」
ドアがあいて、とびだしてきたコナンくんはわたしとおにいさんの間にわりこんで、肩をやさしくつかんでくれた。こちらをうかがうあむろおにいさんのかおは今まで見たことないくらい、まるで別人かと思うほどふだんのおにいさんとかけ離れていた。
それから、ちょっと苦しそうに微笑む。このかおは見たことがある。がまんするときのおにいさんのかお。
「ごめん」
なにに対するごめんなのか、わたしには分からなかった。でもその言葉が、もうおにいさんの口から聞けるさいごの言葉になってしまうんじゃないかと思う。そんなことないと思いたいけど、そんなことないなんて言い切れるりゆうはなくて。わたしは背中を向けて歩いていくおにいさんのすがたをなみだでおおいかくした。
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作者名:えだまめ | 作成日時:2019年10月30日 17時