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【結ばれた糸、離された手】
そんな日々を繰り返して、数ヵ月。施設に武装探偵社と名乗る方々が、軍警からの依頼で取り調べに来たらしいのだ。私はそっと目を伏せる。
「アイリス、大丈夫?」
『き、キースさん。大丈夫です、心配なさらないでください』
聖堂で午後の祈りを捧げていた時、見覚えのある白髪が見えた気がした。神父と共に施設を回っているのだろう。きっと、恐らくだが。
表向きには教会、裏は無能力者に人工的に異能力を与える実験所。子供達が祈りを捧げる場面を見せて、偽る魂胆が見え見えだ。
「此方が神の寵愛を受けた子供達です」
「神父様」
『……、え』
「彼が最年長のキース、彼女が最年長のアイリス。二人はまさに神童です」
「キースと申します。年は十七、彼女はアイリス。年は十五です」
『え、あ、アイリスと申します』
慌てて頭を下げる。被り物のおかげで何とか相手に顔は見えていないだろう。唇を噛んで、叫び出したいのをひたすらに堪える。
何故、どうして。彼が、中島敦が武装探偵社にいるのだろう。高そうな服、綺麗になった身体。楽しそうな笑顔。頼もしい仲間。
幸せ、を煮詰めたような顔をした彼がそこにいた。胸に下げてある十字架(ロザリオ)を握り締めて、何とか平常を取り戻す。
「施設の案内は二人がしてくれますか?」
『ですが、祈りが途中で』
「大丈夫さ、君達は選ばれし寵愛児だ。神はそんなことでお怒りにならない」
「分かりました、神父様」
「……くれぐれも北棟には案内せずに」
そう囁いた神父はゆっくりとした動作で聖堂を後にしていく。キースが私の頭を優しく撫でて、手を引いた。反射的に握り返す。
「では、ボク等が案内します。探偵の___」
「嗚呼、何と美しい!!」
『え?』
「百合のように清らかなシスター、許されるならば私と心中をして頂きたいほどです!」
「太宰、貴様!」
キースの言葉を遮り、太宰と呼ばれた男が私の手を取って口説き始める。それを眼鏡の男性が殴る。見事なとんとん拍子だ。
だが、生憎。表向きには神職となっているので、恋愛などはできない。それ以前に見ず知らずの男に想いを返せない。苦笑いを浮かべた。
「A、ちゃん?」
ピクリと肩を揺らす。名前を呼ばれたのも久しぶりだ。此処ではずっとコード番号、又は洗礼名で呼ばれていたから。後ろを振り向く。
そこには瞳を揺らした憎い少年。
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作者名:セニオリス | 作成日時:2019年8月13日 14時