コドウノオト

1.【春】 ページ1

音楽室の窓からは桜の花びらが、夕日でオレンジに透けているのが見えた。

「•*¨*•.¸¸♪」

ｷﾞｭﾝ！と、ギターをかき鳴らし、二人が微笑む。
横に並んだ二人のマイクスタンド。
互いのギターを繋いだ二人のアンプ。
誰にも邪魔されないこの二人だけの世界が二人にとっては全てだった。

「はぁーーあと2日。…っやな〜」

わざとらしく大袈裟にため息をついた章大は、ピンクのエレキギターを肩にかけたままドスンと近くにあったピアノイスに腰掛けた。

章大の背中が鍵盤を鳴らした。

「ちょ、章ちゃん？大丈夫？！」

亮は揃いで買った水色のエレキギターをギター台に置いて、慌てて駆け寄った。

「りょお…1年って早いね。懐かしい」

ふふっと笑った章大がひらがな表記の発音をするとき、《りょお》は、音楽が忘れさせてくれる章大のそれをまた思い出させる。

「隆ちゃんも一緒に来てくれるって」

そう言いながら、章大が抱え込むギターのストラップを外そうと手をかけた。

「せやから、今日は帰ってゆっくり休まんと。ね？すばるくん、呼ぼか？」

「何言うてんの、大丈夫やって。亮は心配しすぎやで」

漢字表記に戻ったのは一時的にでも悪かった心臓が、一時的にでも回復した証拠である。

「でも…ゆっくり帰ろか。ありがと。亮」

亮がストラップから手を離し、二人は音楽室の片付けを始めた。


黒鍵の上に桜の葉が舞う。
17歳。二人の世界にまた春がやってきた。

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