13 ページ14
．
「何してるの、A！優太の見送り行くわよ」
『ん』
卒業式も終わり殆ど空っぽになった兄の部屋を見つめる。
残された兄のベットに倒れ兄の匂いを嗅ぐ、優しいくて少し香るシトラスの匂い。
「なぁーにやってんだよ、母さんたち待ってるぞ」
ドアに寄りかかって立っていた兄が私に声をかけた。
行かないで、なんて可愛く言えたなら兄は行くのをやめてくれるのだろうかなんて子供じみた発想をしてしまう。なかなか離れない私のそばに兄は駆け寄って手を取った。
「ほら」
強く握り返された手をつい強く握り返すと兄は驚いた顔をしてすぐ私を引っ張っていった。耳は少し赤くなっていて、強く握ったまま離さない兄は狡い。私が何が欲しいのかなんてお見通しだと言うように行動に表してくる。
「あら、Aったら本当にお兄ちゃんっ子なんだから」
『寂しいもん』
車に手を繋いで乗った私たちに母はそう言って微笑んだ。
答えを返して兄の方に頭を乗せる、密かなだけどほんのちょっとの反抗。兄は寄りかかった私の頭を撫でて自分の頭を私の頭の上に乗せた。
手を握られたから、握り返して頭を乗せたから、乗せ返した。
兄と私が初めて思いを伝えあった、言葉には出来ない、けれど兄と私にとっては充分だった。
駅に着くまでの10分間、私たちは確かに愛し合っていたのだから。
．
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 227人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「永瀬廉」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
プラム - 返信ありがとうございます。ヨモギさんの作品好きです。これからも楽しみにしています！ (2019年8月29日 0時) (
レス) id: bd64163aa1 (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ(プロフ) - プラムさん» プラムさん、コメント有難うございます。私も岸くんは普段考えてないように見えるけれど実は誰よりもグループのことを考えて行動している気がします。お気に入りのシーンを好きと言って下さって嬉しいです、有難うございます！ (2019年8月28日 9時) (レス) id: f404b9d437 (このIDを非表示/違反報告)
プラム - 岸くんは太陽みたいな人だけど、月の様な部分もあって。メンバーの誰よりも現実的に物事を捉えているように感じます。お話の中でリアルな岸くんを感じてドキドキしました。車の中でのシーン、私も大好きです。何とも言えない感情が沸き上がってきて、胸が熱くなりました (2019年8月27日 18時) (レス) id: bd64163aa1 (このIDを非表示/違反報告)
海里(プロフ) - ヨモギさん» いえいえ！返信ありがとうございます！！ (2019年7月22日 17時) (レス) id: 5be75b73df (このIDを非表示/違反報告)
ヨモギ(プロフ) - 海里さん» 海里さんありがとうございます、そう言って下さって嬉しいです！ (2019年7月20日 14時) (レス) id: f404b9d437 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ヨモギ | 作成日時：2019年7月17日 11時
