133日目 諦める ページ7
・エマside
薬品の独特な匂いが漂う室内。
他に利用者もおらず、まるでこの世界に存在するのは少女ただ一人のよう。
どうしよう、ダメだ、息が苦しい。
考えなきゃいけないのに、頑張らなきゃいけないのに、頭が、体が、動かない。
医務室のベッドへと沈む体。
横のスツールには誰も座っていない。
そうだ、私は今までノーマンがいつも隣にいてくれたから頑張れたんだ。
そんな当たり前のことを、今になって思い知らされる。
ノーマンがいない。
Aはロクに姿も見せてくれない。
レイまでも…
私一人……私一人!!
この開いた手をとってくれる一回り大きな手も、温もりも、神に願おうが命を差し出そうが、二度と触れられることはない。
できるのかな…皆を逃がし、生き延びる。
そんなこと。
覚悟したとはいえ、実際のショックは想像を絶するもの。
私は何もできなかった。
ノーマン一人逃がせなかったのに……
無理だ、どうすれば……
できないよ、ノーマンがいなきゃ。
心を縛り、纏わりつくそれは、体までもを蝕もうとしていた。
足が痛い、胸が苦しい。
ちがう!ダメだダメだ動け!!
腕を払い、体を起こそうと顔を上げると、立っていた予期せぬ来訪者。
「ノックはしたのよ。聞こえなかった?」
すぐに構えたが、かわいそうにと言われた次の瞬間ママの腕の中にいた。
「辛いのね、苦しいのね。ノーマンは死んでレイはあのザマ。Aは籠りっぱなし……あなた一人じゃ何もできない」
第三者に口にされることで、改めて深く刺さる言の葉。
「羽をもがれ、逃げ道を閉ざされ、その上心の支え(仲間)まで失って」
自分の足、崖、他の三人。
「かわいそうに、絶望の極みね。脱獄はもう絶対に叶わない」
反論しようにも、口は開かない。
「諦めてしまいなさい」
ずっと避けてきた、見ないフリをしていたその単語。
「絶望に苦しまずに済む一番の方法は、諦めることよ」
けれどどこかスッと入ってくるママの声。
「そういうものだと諦めてしまえばいい。楽になれるわ、簡単よ。抗うから辛い、受け入れるの」
いつの間にか隣に腰掛けていたママ。
「私はね、エマ。あなたが望めば、あなたをこの農園の飼育監(ママ)候補に推薦しようと思っているの」
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作者名:水月 | 作成日時:2019年7月13日 23時