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132日目 降りる ページ6




掛布団、敷布団、枕が消えて、ベッドフレームだけとなった彼のベッドスペース。

食器も並ばず、動かされることのないその椅子。

みっしり一列に整頓された歯ブラシの入ったコップは、一か所ぽっかりと空いている。

テスト中いつも視界の隅でチラついていた左腕の動きも、今日は無い。


「A」


呼ばれた気がして振り返るも、その声の主はいなくて。


……だよね。


行ってしまったとわかっているのに、つい目が、耳が探してしまう。

この寂寥感が埋まることはもう一生ない……それが余計に苦しかった。


__________
_____


「もういい、農園(ここ)で死のう」


夜の食堂でレイが言った。


「え?」

「無理だ。周り崖だし、橋も本部から出ている一つだけ」


でも、心のどこかで思っていることだった。


「何より疲れた」

「なっ…」

「疲れたんだ……」


それに、最後のそれを聞いたら何も言えなかった。


「……じゃあコレは?」

「要らない。お前にやるよ」


長い時間を費やした装置も、今のレイにはどうでもよくて。


「逃げたきゃ逃げろ。俺は降りる」


ずっと垂れていた顔を徐ろに上げると、辛うじて精気を宿している目を向けて言葉を紡いだ。


「……ごめんな、エマ……」

「エマ!!」


エマが食堂を去ると、二人の視線は私に注がれていた。


『あ……』


ここで私も折れてしまえば、バラバラになるのは容易に想像が付く……それでも__


『時間が欲しい……』


ごめんねと心の中で謝り、行き先も決めず廊下に出た。

_____
__________


気持ちを切り替えて、すぐに今まで通り振る舞える自信も無い。

指示を出し、皆を引っ張るのも、今の私には出来っこない。




















「エマ今日も元気ないね」

「エマだけじゃないぜ」

「レイもだよ」


フィルの呟きに、トーマとラニオンもペットボトルロケットを飛ばしていた手を止め、反応した。


「二人とも寂しいんだね…そういえばAは?」

「音楽室に籠ってるっぽい」

「そっか…」

「まぁ…4人仲良かったからな」









二人は先程のフィル達の会話を見た後、森に来た。


「エマもレイも別人よ。Aは姿を見せないし。これで本当に脱獄できるのかしら……」

「……」


ドンも頼りのノーマンがいないこと、そして自分達がバラバラになっていると感じていた。


「ビビったって仕方がねぇ。俺達だけでも頑張ろうぜ」

「うん……」


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作者名:水月 | 作成日時:2019年7月13日 23時

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