132日目 降りる ページ6
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掛布団、敷布団、枕が消えて、ベッドフレームだけとなった彼のベッドスペース。
食器も並ばず、動かされることのないその椅子。
みっしり一列に整頓された歯ブラシの入ったコップは、一か所ぽっかりと空いている。
テスト中いつも視界の隅でチラついていた左腕の動きも、今日は無い。
「A」
呼ばれた気がして振り返るも、その声の主はいなくて。
……だよね。
行ってしまったとわかっているのに、つい目が、耳が探してしまう。
この寂寥感が埋まることはもう一生ない……それが余計に苦しかった。
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「もういい、農園(ここ)で死のう」
夜の食堂でレイが言った。
「え?」
「無理だ。周り崖だし、橋も本部から出ている一つだけ」
でも、心のどこかで思っていることだった。
「何より疲れた」
「なっ…」
「疲れたんだ……」
それに、最後のそれを聞いたら何も言えなかった。
「……じゃあコレは?」
「要らない。お前にやるよ」
長い時間を費やした装置も、今のレイにはどうでもよくて。
「逃げたきゃ逃げろ。俺は降りる」
ずっと垂れていた顔を徐ろに上げると、辛うじて精気を宿している目を向けて言葉を紡いだ。
「……ごめんな、エマ……」
「エマ!!」
エマが食堂を去ると、二人の視線は私に注がれていた。
『あ……』
ここで私も折れてしまえば、バラバラになるのは容易に想像が付く……それでも__
『時間が欲しい……』
ごめんねと心の中で謝り、行き先も決めず廊下に出た。
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気持ちを切り替えて、すぐに今まで通り振る舞える自信も無い。
指示を出し、皆を引っ張るのも、今の私には出来っこない。
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「エマ今日も元気ないね」
「エマだけじゃないぜ」
「レイもだよ」
フィルの呟きに、トーマとラニオンもペットボトルロケットを飛ばしていた手を止め、反応した。
「二人とも寂しいんだね…そういえばAは?」
「音楽室に籠ってるっぽい」
「そっか…」
「まぁ…4人仲良かったからな」
二人は先程のフィル達の会話を見た後、森に来た。
「エマもレイも別人よ。Aは姿を見せないし。これで本当に脱獄できるのかしら……」
「……」
ドンも頼りのノーマンがいないこと、そして自分達がバラバラになっていると感じていた。
「ビビったって仕方がねぇ。俺達だけでも頑張ろうぜ」
「うん……」
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作者名:水月 | 作成日時:2019年7月13日 23時