検索窓
今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:22,041 hit

156日目 私の負け ページ31

・イザベラside


__「“私が生き延びるため”よ」


あの時のことを一度たりとも忘れた日などない。


生きたかったのよずっと……誰よりも長く。


悔しかったのよ、たまらなく。

彼が殺されていたなんて。


何もできない、変えられない、だからこそ。

せめて行き続けてやりたかった、食べられない人間として!!


その思いでここまでやって来た。


「でももう……いいか」


私の負けよ。


あの子達は外へ出た。


私は商品を守りきれなかった無能な飼育監。

頂点の地位も、築き上げた成果も、たった今全て失ったわ。

今更あの子達を追ったところで私は……もう__


もしクローネを排除しなかったら。

もしあの日ノーマンに崖を…塀の向こうを見せなかったら。

違う結果になったかしら。


いいえ。「結果」にもしもはない。

どの道あの子達の成長は見抜けなかった。

やっぱり私の負けなのよ。


__「ねぇママ、見て見て」


蘇る昔の記憶。


あんなに小さかったのに……


泣きじゃくるドンとギルダ。


みんなあんなに小さかったのに……


膝にエマとレイを乗せ、その周りを皆が囲み、絵本を読み聞かせた。

昼に寝かしつける時はいつも隣同士だったトーマとラニオン。


ただ普通に愛せたらよかった。


走っていく16人。

その姿はどんどんと小さくなっていく。


気をつけてね。

__願わくば、その先に光がありますように。


ロープが風に靡いていた。




















燃えるハウスを眺めるフィル。


エマ……


「ママ!」


シーツとブランケットを両手に、ママは戻って来た。


「安心なさい、無事逃げて行ったわ」

「え」


フィルの頭に手をやり、それだけ言うと寝ている子供達の方へと向かう。


「……」

「ママァ…?」


寝惚け眼をこすりながら、起き出した弟妹は抱き着く。


「ごめんね……みんな、寒い中寂しかったね」


持ってきた寝具を配り、2、3人で温め合いながら寝る。


「きれい……はじめてきくお歌…」

「ええ、ママのだぁいすきなお歌」


ママの膝枕という特等席で眠りについた、キャロル達。


追手はすぐにはかからない。

まさか崖から逃げるなど考えない。


痕跡(ロープ)は回収しておいた。

当分は農園(上)も血眼で園内を探すでしょう。


私にできるのはこれまでよ。

がんばって逃げなさい。


157日目 ハジマル→←155日目 お母さん



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.3/10 (38 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
37人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:水月 | 作成日時:2019年7月13日 23時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。