156日目 私の負け ページ31
・イザベラside
__「“私が生き延びるため”よ」
あの時のことを一度たりとも忘れた日などない。
生きたかったのよずっと……誰よりも長く。
悔しかったのよ、たまらなく。
彼が殺されていたなんて。
何もできない、変えられない、だからこそ。
せめて行き続けてやりたかった、食べられない人間として!!
その思いでここまでやって来た。
「でももう……いいか」
私の負けよ。
あの子達は外へ出た。
私は商品を守りきれなかった無能な飼育監。
頂点の地位も、築き上げた成果も、たった今全て失ったわ。
今更あの子達を追ったところで私は……もう__
もしクローネを排除しなかったら。
もしあの日ノーマンに崖を…塀の向こうを見せなかったら。
違う結果になったかしら。
いいえ。「結果」にもしもはない。
どの道あの子達の成長は見抜けなかった。
やっぱり私の負けなのよ。
__「ねぇママ、見て見て」
蘇る昔の記憶。
あんなに小さかったのに……
泣きじゃくるドンとギルダ。
みんなあんなに小さかったのに……
膝にエマとレイを乗せ、その周りを皆が囲み、絵本を読み聞かせた。
昼に寝かしつける時はいつも隣同士だったトーマとラニオン。
ただ普通に愛せたらよかった。
走っていく16人。
その姿はどんどんと小さくなっていく。
気をつけてね。
__願わくば、その先に光がありますように。
ロープが風に靡いていた。
・
・
燃えるハウスを眺めるフィル。
エマ……
「ママ!」
シーツとブランケットを両手に、ママは戻って来た。
「安心なさい、無事逃げて行ったわ」
「え」
フィルの頭に手をやり、それだけ言うと寝ている子供達の方へと向かう。
「……」
「ママァ…?」
寝惚け眼をこすりながら、起き出した弟妹は抱き着く。
「ごめんね……みんな、寒い中寂しかったね」
持ってきた寝具を配り、2、3人で温め合いながら寝る。
「きれい……はじめてきくお歌…」
「ええ、ママのだぁいすきなお歌」
ママの膝枕という特等席で眠りについた、キャロル達。
追手はすぐにはかからない。
まさか崖から逃げるなど考えない。
痕跡(ロープ)は回収しておいた。
当分は農園(上)も血眼で園内を探すでしょう。
私にできるのはこれまでよ。
がんばって逃げなさい。
・
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作者名:水月 | 作成日時:2019年7月13日 23時