漆黒の禍狗はパパになったようです

羅生門とはいはいと ページ4

〜生後5ヵ月〜

「うー」

僕の数メートル先で、愛しの娘、治春が、ずり、とはいはいをしながら近寄って来た。

「ほら、治春、僕は此処だ」

衣服から何時もより少しばかり小振りの黒獣を出し、治春のほんの少し先で揺らし、僕まで誘導する。

すると、治春はA譲りの美しい菫色の目を輝かせ、懸命に這い、黒獣に小さな手を伸ばす。

「あー、あー！ん！」

嗚呼、愛らしい。

僕が頬を弛ませていると、黒獣を追うことに夢中になっていたせいか、

ぺちんっ

と手を滑らせてしまった。

「ッ！治春ッ！」

慌てて抱き上げるも、時既に遅し。治春は、もう既に大きな目いっぱいに涙をため、泣く準備が万端だった。

「ふ…うぅう…」

「だ、大丈夫だ…僕が、来たからな」

声を掛けつつ、床にぶつけて赤くなってしまった治春の丸い顎を優しく撫でる。

隣では、黒獣も治春のお気に入りの玩具を鳴らして治春を懸命に慰めていた。

其れが効を成したのか、治春は、黒獣をじっと見つめると、きゃっきゃっと笑いながら黒獣をぺちぺちと叩いて遊び始めた。

「きゃー!ん！あーう！」

良かった。

僕は一つ息を吐くと、其の儘黒獣と戯れる治春の頭をそっと撫でた。

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「ふふ、二人とも楽しそうね」

台所から、Aが夫と愛娘が一緒に遊ぶ様子を見て微笑んでいたのは、誰も知らない。

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