リリア様の溺愛ペット (ページ1)

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プロローグページ1

Aの朝は大体遅い。
太陽が完全に上がりきった頃に、つんつんと頬をつつかれて起こされるのである。

犯人はAの親愛なる主人、リリア・ヴァンルージュ。かつて生贄に捧げられあわや餓死寸前という状態であったエヴァを拾い、癒してくれたAの大恩人である。

Aはかつて、なんてことはないただの村娘であった。
しかしある時、『世の中の悪いこと、理不尽なことは全て妖精のしわざ』という考えと、『何かどうしようもない不幸が続いたら妖精に生贄を差し出して妖精の国に帰ってもらう』という習慣が根付いてたエヴァの住む村に天災が相続き、Aに生贄としての白羽が立ってしまったのだ。

唯一の肉親であった母親もその直前に病で亡くし、家族がいないひとりものであったというのも、選ばれた理由のひとつだったのかもしれない。今となっては確認するすべはないけれど。
まぁともかく、そういう風にして生贄になったAは、けれど"悪さの原因である妖精”が待てども待てども、いつまで経っても現れず、しかも生贄らしく飲まず食わずであったので、ついにはこう、意識がフッと遠くなり。つまりは、気絶をしてしまったのである。

そんなあと少し遅ければ命さえ危うかったであろうAを拾ってくれた人物。それこそが、妖精族のリリア・ヴァンルージュであった。
当時とても興味深そうにしながらAの看病をしてくれていたリリアは、当然"悪さの原因である妖精”などではなかった。というか、そんなのは所詮は人間の妄想であり、"悪さの原因である妖精”なんて最初から存在しないのだという。
当時のAの身の上を聞いたリリアは、まぁそんなこともあるだろうというように、あっけらかんとして"妖精”の正体を教えてくれた。

それからリリアは、Aに『これからどうしたいか』と問いかけた。それに対しAは、長く考えた末に、『あなたに恩返しがしたい』と答えたのである。
リリアがAを見つけたのは偶然らしいし、拾ったのも気まぐれだといった。けれどAがそんなリリアの気まぐれに救われたのもまた、紛れもない事実であったが故の言葉であった。

リリアは最初、そんなAの答えに意外そうにぱちぱちと目を瞬かせていたけれど、暫くののちにドッと笑い出して。

そうして、Aのこの堕落しきった生活は始まったのである。