第六十三話 ページ16
十二時を示す時計が、小さく重たい鐘の音を鳴らす。
タルタリヤの視線の先。
それだけではなく、彼の背後にも……ベッドにも……床にも。
異常な程積み上げられた『毛布』が至る所に並べられていた。
その数は何十という数にまで及び、明らかに人ひとりが必要とする限度を超えており。
(何故こんな状態に……)
少しの間、見たことのない異常さに固まっていたタルタリヤだったが、すぐに原因を探るべく頭を働かせ始める。
そして、数十秒としないうちにある疑問と強く結びついた。
(凍傷……鍾離先生と出会った時の震え)
毛布の使い方といえば、当然体にかけて温めるのが主。
鍾離との食事会の時に、少女が寒そうにしているのを見ていたタルタリヤは、彼女の体にある凍傷らしきものと含め関連を疑う。
(仮にそうだとすれば、こんなに持って来なければいけない程面なしは酷い状態なのか……? だとしても俺は震えている姿を一度しか見ていない)
可能性までは導けたものの、少女の体の原因が何と結びついているのかが分からず、腕を組み更に別の理由を考え始める。
他にも何か情報を得られないかと明るいうちに再び周囲を見回すが、ベッドと小さな丸テーブル、替えの着物が入ったクローゼット以外何一つ置かれていない。
(鍾離先生なら恐らく知ってるんだろうけど……)
正体に気付かれたと少女自身言っていた為、一番なのは鍾離に聞くことではあった。
……が、すぐにその案はタルタリヤの頭から消える。
(聞いても教えてくれないだろうし……俺自身で調べたい)
自分の力で彼女に近付くことを決めたタルタリヤ。
とりあえずこの部屋にはもう何もなく、これ以上長居しても見つかる可能性が増えるだけだと判断し、再び廊下へ戻ろうと踵を返す。
「…………」
しかし、何か引っかかったのか進んでいた足がピタリと止まり。
(ーーそういえば、神の心の場所を探っていた時を除いて面なしが自分から俺と別行動を取りたいと言った記憶がない)
ふと思い浮かんだのは些細なことだが、タルタリヤはそこが妙に引っかかった。
執行官か、もしくは女皇からの命令でなければタルタリヤから離れることのなかった少女が、神の心の一件でやたら別行動を取りたがっていたこと。
固く結ばれていた紐が解けていく様に、可能性が新たな可能性を作り出し、繋がっていく感覚がタルタリヤのなかに芽生え始め……。
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やみくも(プロフ) - もなかじゃんぼさん» お褒めの言葉本当にありがとうございます!お二人のような関係性が自分も大好きなので、分かってくださる方がいて下さって嬉しい限りです( ˃ ⌑ ˂ഃ )ありがとうございます!!!! (2022年5月17日 21時) (レス) id: 4ee0636c47 (このIDを非表示/違反報告)
やみくも(プロフ) - ぱぁわさん» 返信が遅くなり申し訳ございません!応援のコメント大変励みになります!ありがとうございます<(_ _)>ゆったり更新になってしまっておりますが、またお時間ある時に見て下さると幸いです! (2022年5月17日 21時) (レス) id: 4ee0636c47 (このIDを非表示/違反報告)
もなかじゃんぼ - 凄く凄くいい。このじわじわとくる、相手の腹を探るこの関係!!!!凄すぎる!!!どうやったらこんなストーリー思いつくのか!!!!!とても面白いです!更新頑張ってください!!! (2022年5月16日 1時) (レス) @page18 id: 0eb447a2e9 (このIDを非表示/違反報告)
ぱぁわ - 続き待ってます。頑張ってください!! (2022年5月7日 23時) (レス) @page16 id: 2211ccb7f8 (このIDを非表示/違反報告)
ももは - 自分のペースで頑張ってください、!!ゆっくり待ってます!(*´ω`*) (2022年5月7日 21時) (レス) id: 563d44d02c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:やみくも | 作成日時:2022年2月27日 0時