陸 ページ7
「ただいまー！ …って、あり？」
「お、お邪魔します…」
「…」
「お邪魔します」
その日の放課後、癒月は風陽達を連れて帰ってきた。
玄関の戸を開けて帰宅の挨拶をすればいつもなら「おかえり」と出迎えがあるのだが、今日は一振も来ず、本丸内は静まり返っている。
「誰も…いないの、かな？」
「うーん、癒月が帰ってくる時間に出掛けることはないと思うけど」
「取り敢えず靴脱いでろ」
陽華と風陽が顔を見合わせている間に癒月は厨を覗いて戻ってくる。
両手で大きくバツを作った癒月に、深呼吸を繰り返していた月野が言った。
「いや、既に全員が大部屋に移動している」
確信を持ったその言い方に目を瞬いた癒月だったが、思い当たったようにポンッと手を打つ。
「あ、月野は鼻がきくんだったな」
「便利なことにね」
風陽がクスリと笑う。
靴を脱いだ月野は不快そうに顔を顰めた。
「不便以外の何物でもないんだが」
そして肩を並べて四人は大部屋に向かって歩く。
「ね、ねぇ…どうして僕達までここに呼んだの、風陽？」
大部屋の前まで来て陽華が意を決したように、集合をかけた風陽に尋ねる。
風陽は癒月と同い年でありながら政府に所属し、癒月の本丸の担当者として、政府からの伝言を伝えに来るなどの仕事を持っている。
その為、風陽一人でここを訪問することは多々ある。
しかし、今のように月野と陽華も呼ぶことはそうそうない。
三人の視線を受け、風陽は穏やかに微笑む。
「話があるんだ。…二人も関係する仕事の話が」
風陽の表情に何を感じ取ったのか、三人とも不安げな色を瞳に浮かべた。
「…ろくな話じゃないな」
月野の呟きに、風陽は否定も肯定もせず
「取り敢えず中に入ろうか」
と、自身の左にある障子戸を指す。
中からは刀剣男士達の話し声が聞こえる。
風陽をじっと見つめていた癒月はフッと息を吐き、
「あぁ、刀剣男士達も待ちくたびれてるだろうからな」
と頷いた。
中に入ると、刀剣男士達が正座して待っていた。
朝癒月が「テキトーに座ってていい」と言っていたので、刀派や仲の良い者同士で座っている。
三人は刀剣男士に背を向ける形で腰を下ろし、風陽だけ彼らに向かい合うように正面に座った。
「で？ 話って？」
先程までと違う真面目な声で癒月は尋ねた。
風陽は小脇に抱えていた封筒を開け、そこからパンフレットを取り出した。
「来年からここに通ってほしい」
雄英高校の学校紹介のパンフレットだった。
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作者名：飛悠雅 | 作成日時：2020年3月5日 16時
