水面の桜 2

50 ページ9

・









「……おいおいおいおい、やばいんじゃね……？」



隣の潤くんがぼそりと呟いたのは、8回表。



先制点を相手に入れられ、こっちは1点も入れられないまま
試合はもう、終盤に差し掛かろうとしている。




あれだけ毎日、素振りをしていた相葉さんも

バッティングの方は、今日は、調子が悪いみたいで。





「…………ピッチングは完璧なのに……」



相手の先制点が入れられたのは、守備のエラーが原因。

それ以外、点なんて入っていないのに。







「う〜……お願い、誰か……！」



もし、俺が今、あのバッターボックスに立てたら

『誰か』なんてかっこ悪いこと言わないのに。






……でも、今の俺には祈ることしかできない。




…………お願いだ。



相葉さんのためにも、大野さんのためにも……！







・








・








・







そんな俺の祈りも虚しく、





＿＿＿＿＿バシッ



「あー……」






観衆の耳に、気持ちのいいバットの音が響くことはなかった。






「………………くそっ」




遠くの空を仰いだ時


なぜか、翔ちゃんの顔が思い浮かんだ。

51→←49

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す