水面の桜 2

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Aサイド









「……雅紀は、最低なんかじゃないよ」



小さくて、優しい声。


綺麗な顔立ちからは思い浮かばないような、少し低くて掠れた声。







…………ああ、そうか。


俺は、この声が聞きたかったんだ。





「……雅紀が頑張ったのは知ってる。……ニノも、潤も知ってる。もちろん、智くんだって」





翔ちゃんの言葉に耳を傾けながら、天井を見上げた。


……涙が、零れそうで。







「……それにね、俺は勝負事とか、よく分からないから……こんなこと言うのも変かもしれないけど」



そんな俺にお構いなしに、翔ちゃんは起き上がって
俺の手をそっと握る。









「＿＿＿俺はね、負けて一番悔しいのは、一番頑張った人だって、思うから。

……たとえ、その人が涙を流していなくても。


……一番悔しいのは、一番頑張った人なんだよ」







＿＿＿ざわり


夏の生暖かい風が、窓から吹き込む。







……こんなの、ひどい。泣いちゃうじゃんか。







「……ビデオ、見ただけで分かったよ。一番悔しいのは、雅紀だって」







優しい、優しい声と風が

俺の身をそっと包む。





まるで





＿＿＿＿泣いていいんだよ




って、言ってるみたいに。









「……っふ……う……負けちゃった……よ……」





泣き始めたらもう、止まらなかった。




ぼろぼろと零れていく水滴は


シーツにシミを作って消えて、作って消える。








「頑張った……けどっ、ダメだった……！」


「…………うん」





左手に、温もり。


握られた手から伝わる、翔ちゃんの温もり。




翔ちゃんが、生きている証拠。









「雅紀。…………ありがとね」


「……っ」







翔ちゃんの言葉は、俺のリミッターを簡単に外してしまう。




……それからは、思いっきり泣いた。




子どもみたいに、わんわんと声をあげて






＿＿＿＿思いっきり、泣いた。

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