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「……まずいな、これは」
「……まずいですね」
部員用の応援席の空気は、『重い』の代名詞。
……まあ、無理もないだろう。
「9回表……ここで点入らなかったら、終わりだな」
険しい顔でばっさりと言い切った潤くんは、応援席のフェンスを掴み、
バッターボックスに立つ先輩をじっと見つめた。
力む先輩は三振、三振。
感情に任せて振られたバットは、空気の切る音を虚しく奏でるだけだった。
「……ちっ……くしょぉ…………!!」
先輩のスパイクが地面にめりめりと食い込み、
その悔しさが、グランドの土に刻まれる瞬間を
俺たちはただ、フェンス越しに眺めることしかできなかった。
「…………相葉さん……」
ネクストバッターボックスを見つめ、心配そうに呟く潤くん。
最後の打者は、相葉さんだ。
……一方の俺は、別の方向を見つめる。
一般用の応援席。
前方とも後方ともいえない場所で、案の定カメラを構え続けるあの人。
……始まる前と、少し表情が違っている気がした。
「…………?」
意外だったのはその先。
カメラを席に置いたと思えば、急に立ち上がって
フェンスをがしゃん、と掴んだ。
「ぁ……いばちゃん!」
「「!?」」
突然の行動に、俺たちも、当然周りの人もびっくりする。
…………でも、一番びっくりしているのは
バットを持って大野さんをぽかんと見つめている、相葉さんだった。
「お…………俺にも、教えてよ」
「え……?」
「や、野球が楽しいって……学校が楽しいって……教えてよ!」
その瞬間。
その瞬間、少し強張っているように見えた相葉さんの表情が、一気に変わった気がした。
「お……俺さ、ばかだから……相葉ちゃんが楽しんでる姿見ないと、分かんないの!
学校が楽しいって……口で言われても、わからないんだもん!」
「…………大ちゃん……」
____あ、そうか。
そうか。
翔ちゃんも言ってたじゃん。
『きっと……ただ純粋に、すごいところを見せて、智くんに教えてあげたいんだよ』
「…………俺に見せてよ! 相葉ちゃんが楽しんでる姿……!」
そこまで言うと、大野さんは恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしながら席に戻って
またカメラを構える。
「ぷっ……あひゃひゃひゃっ!」
突然に笑い出した相葉さんは、
楽しそうで、楽しそうだった。
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花櫻(プロフ) - ふうかさん» ありがとうございます…! メイキングの山コンビが最大級にきゅんきゅんしました(笑)翔くんの衣装がすっごいよかったです♪ (2015年3月8日 22時) (レス) id: 268cdfb6c7 (このIDを非表示/違反報告)
ふうか - 花櫻さん» 謝るでしたね(汗)すいません! (2015年3月8日 1時) (レス) id: 621223be2b (このIDを非表示/違反報告)
ふうか - 花櫻さん» 誤らなくていいですよ^^sakuraのpvの出だしから翔くんが出てきたのでテンション上がりました!メイキングのナレーターは『はじめてのおつかい』の方でしたね!試験お疲れ様です! (2015年3月8日 1時) (レス) id: 621223be2b (このIDを非表示/違反報告)
花櫻(プロフ) - あーるさん» ありがとうございます!テスト終わって本当に嬉しいです!更新頑張ります! (2015年3月7日 23時) (レス) id: 268cdfb6c7 (このIDを非表示/違反報告)
花櫻(プロフ) - ふうかさん» いつも待たせてしまって、本当にすみません!!せっかくコメントいただいてるのに…!本当にすみません! pv良かったですね♪山カットが多くて(笑)ピカンチのDVDもゲットしました!めっちゃ良かったです♪ (2015年3月7日 23時) (レス) id: 268cdfb6c7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:花櫻 | 作成日時:2015年1月8日 22時