【d!】Suber Zucker【現パロ】 (ページ8)

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まず、口をつける寸前その芳醇な香りに思わず動きが止まった。ダージリンとは元々香りが重視される紅茶であるが、ここまで香り高く淹れられるものなのか、と。オスマンが淹れたダージリンとよく合致しているように思えた。そのままカップを傾けて口の中へと液体を運ぶとソレはひどく力強いボディーを持っていた。喩えるならばそう、これはワインといっても良いほどだ。フルボディと形容されるであろうどっしりとした味わいに愕然とする。これは、所謂セカンドフラッシュ、その中でも最上と言われるマスカテルではないだろうか。以前オスマンやエーミールが手に入れるのに苦労したと言っていたソレと同等の紅茶が、まさか専門店でもなくこんなひっそりと建つケーキ屋に置かれているだなんて誰が想定できるだろうか。

ふくよかな芳香を楽しみつつまた一つ、また一つとケーキに手を伸ばしていく。どれをとってもこの人生の中で食べたどれより美味で。きっと今の自分の顔はだらしなく緩んでいるに違いない。

「か、わいい」

そんなことを思った瞬間、そんな声が聞こえてきた。声の聞こえた方向を見やれば先ほど対応をしてくれた店員とカウンター越しに目が合った。失言したと思ったらしい彼女は慌てて口元を抑えた。

「こんなおっさんがこんなに甘いものなんて似合わないと、そう思うだろう？」

きっと彼女の心情はこうだろうと当たりをつけて自嘲気味に言ってみせる。些か意地悪な問いかけをしてしまったかもしれないと思うには遅すぎて。先ほどの彼女と同じく口元を抑えかけたが、彼女のほうが半瞬早く答えて見せた。

「意外だなぁとは思いましたけど似合わないとは思いませんよ。それに似合う似合わないだなんて酷い価値観の押し付けだと思ってますから」

そういって真っすぐにこちらを射抜く視線と、想定外の返答に瞠目する。これは、なんとも嬉しい想定外だ。思わず笑ってしまえば今度は彼女が瞠目した。

「そんなに可笑しいことを言ったでしょうか？」

「いや、いやいや。ただ知り合いによく似たようなことを言ってる奴がいてな。ああ、そうだとも似合う似合わないなんてのは価値観の押し付けに過ぎないさ。だからこそ君が価値観を押し付けてこなかったのが嬉しくてね」

意地悪な質問に臆さず答えたのにも関わらず心配そうにする彼女が面白くてつい笑みを深めてしまう。なんとも可愛らしい人だと柄にもなく思ってしまった。