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そうやって話し込んでいると閉店の時間を過ぎていることにはたと気がついた。
「あっ！閉店時間！！」
「それは、長居してしまって申し訳ない」
焦って口に出すとグルッペンさん_話の最中で聞いたが彼はグルッペンという名らしい_が申し訳なさそうに口を開いた。
「いえいえ良いんです。お客様が第一ですから。それに、楽しかったですし」
「それは...…また嬉しいことを言ってくれる」
「私、世辞は苦手ですからそのままの意味として受け取ってくださいね？」
「世辞が下手だと言う割には随分口が上手い様だな」
「それはどうでしょう」
話し込むうちに打ち解けてしまってお客様に対して軽口を叩いてしまう。先程もそんなような事があって謝罪をしたのだが気にしなくていい、と一蹴されてしまった。
「さて、それではそろそろ失礼するとしようか。素晴らしい時間をありがとう。きっとまた来る」
「ええ、是非。またいらしてください」
店の出口まで見送って深く頭を下げる。チラリと振り返ったグルッペンさんはこちらを一瞥してまた会釈を返してくれた。最初に入ってきた時からそうだったが礼儀正しい人だなぁと思いながら店へと入り、早々に閉店の準備へと取り掛かった。
最終的に閉店作業が終わったのは平時より30分程遅れた時間だった。話すのが楽しくてついつい時間を忘れて話し込んでいたのは自分の落ち度である。いつもより遅い帰り道を歩きながらふぅ、と短く息を吐く。
「どこか不思議で可愛い人だったなぁ」
第一印象からは随分とギャップのある人だった。コロコロと表情を変えて、無邪気に笑ったり、拗ねたり、柔らかい笑みを浮かべてみたり、真面目な顔をしたり。
今度はいつ来てくれるんだろう。
どのケーキを選んでくれるんだろう。
私の作ったケーキをまた褒めてくれるだろうか。
淡い期待を胸に静かな夜道をひた歩いた。
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作者名：縹色 | 作成日時：2019年7月1日 12時
