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珍しいな、なんて思って未だショーケースを眺める人物に目を向ける。
仕事帰りだろうか、高そうな黒いスーツで身を包んだその人は新規のお客様だ。基本的に常連のお客様ばかりが来店するこの店で、新規の方がいらっしゃるのは結構珍しい。それに新規の方は大抵常連様のお連れでいらっしゃるのだからこうして御一人でいらっしゃる新規様なんて本当に珍しい。
珍しいがあまりにじっくりと眺めてしまう。一本一本が細い金糸の髪は色白な肌に彩を添えて、こちらからは伏せられた長い睫毛に覆われた紅玉の瞳は吸い込まれるような不思議な光彩を放っているように見えた。
「すみません、聞いてもらっても？」
「あ、はい。お伺い致します」
「ピスタチオとグレープフルーツのヴェリーヌとショコラクラシック、コーヒーのモンブランとカラカス、季節のショートケーキとスフレフロマージュを1つずつ」
その人物に魅入っていたために、低く這うようなバリトンで話しかけられて思わず瞠目してしまう。それにしてもよく頼むな、家族が友人とでも食べるのだろうかと思う。
「かしこまりました。お持ち帰りでよろしかったでしょうか？」
「.....いや、店内で食べられるのであればそうしたい」
「では、どれをお箱にお入れしましょう？」
「全て店内で食べるので構わない」
「はっ？」
その一言には流石に声を抑えられなかったのも致し方なかったと思う。なんせケーキ6点を全て1人でその場で食べるだなんて長くここに務めているが聞いたこともなければ見たこともなかったのだ。
「いえ、失礼致しました。お飲み物は如何致しましょうか。こちらからお選びいただけますが」
スっとドリンクメニューを差し出せば一瞥した後にダージリンで、と最低限の返事だけが帰ってきた。
男性にお好きな席をどうぞと声をかけて席へ着くように促してからケーキ6点を皿に乗せ、ティーカップとソーサー、ティーポットを用意する。
手際よく沸かした湯をカップに注ぎ、カップを温めつつ茶葉をティーポットに入れて高い位置から高温の湯を注ぎ入れる。
横にかけられた湿度、温度計に目をやって適切な蒸らし時間を弾き出してタイマーをセットし、その間にシュガーとミルク、ケーキフォークやティースプーンを用意する。
大体を準備し終えた折に丁度よくタイマーが鳴って蒸らし時間が終わったことを告げた。カップに注いであったお湯を捨ててティーポットから一滴残らず茶をいれれば準備完了だ。
「よし、出来た」
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作者名：縹色 | 作成日時：2019年7月1日 12時
